俺とファーストデートと侵略ロボ

第11話 夏休みの朝、決意と侵略ロボ

 一晩寝て目覚める……。

 それだけで世界の色合いがすっかり変わっちまうんだ。


 つまり、俺は授業がある世界から授業のない世界、夏休みへ移動したってことだ!


「うおおおおーっ!!」


『ウグワーッ!』


 俺が勢いよく飛び起きたら、腹の上で寝ていたダミアンがベッド下に転がり落ちていった。

 侵略ロボ、寝るんだな……!


『六時四六分!? おかしい……ハルキの目覚めがいつもよりも三十分早い……!!』


「それが……夏休みというものだ! 一分一秒が貴重な、最高のモラトリアム期間だぞ!!」


『ハルキが覇気に満ちている……!! これはダミアンも本気でサポート背ざるを得ない!!』


 うおおおおーっと盛り上がる俺とダミアンである。

 ちなみに。


『ハルキが寝た後、ダミアンは一時間ほどインターネットを探索しているのだが、だいたい情報をさらい終わるので暇になる。この場合、メモリーエネルギーの消費がもったいないので機能を停止するのだ』


「それで俺の腹の上に乗るのか」


『襲撃があった時、ダミアンが一番近くにいるほうが安全だ』


「なるほどー。猫の習性みたいなもんかと思った」


 俺が顔を洗いに階段を降りると、ちんまい手足を出して立ち上がったダミアンが、ぴょんぴょんとついてくる。

 一段一段をジャンプしながら降りてくるのだ。

 うーむ、これは……かわいいのかも知れないな。


 一家揃って飯を食う。


「おはよう。今日は早いな……!! 夏休みだからか……」


 親父がびっくりしている。

 俺は今、高校入学以来一番モチベーションが高いぞ。


 ダミアンも当たり前みたいな顔をしてテーブルの上に乗ってきた。

 親父が妙な顔をする。


「母さんが買ったお掃除ロボか何かか?」


「強力な相棒よ」


 母がダミアンの頭をポンポン叩いた。


「そうか……そうなの?」


「そうよ。私の小説、すっごいダウンロードされて、このまま行けば今月は百万狙えるわ」


「は!? すっご……」


 親父が心底感心したらしい。

 なんかダミアンを見つめる視線にリスペクトの色を感じる。


「最近のお掃除ロボは凄いんだなあ」


 やっぱり理解してないぞ。


 そしてテレビを見ていたら、各国でUFOみたいなのの目撃情報が相次いでる、みたいな話があった。

 一つは紛争地帯に降りてきて、突然そこでの戦闘が停止したらしい。


「なんだなんだ? 朝からオカルト番組でもやってるのか。え? これニュースモーニングナウなの? 受信料取ってるのに朝からなんでバラエティを報道番組でやってるんだ」


 親父がなんかぷりぷり怒っていた。

 この人、何も理解してないな……!!

 現実の認識が凄く強固な人だ。


 なお、ダミアンは『我が艦隊がサードアース近辺に到着したようだ』とか何か説明している。

 なんだなんだ。


「あれってダミアンちゃんのお友達?」


『うむ、ダミアンの同僚である。だが、彼らは現地人との接触に失敗しているようだな』


 紛争が停止した地域に、両軍が部隊を送り込んだとか。

 とある国ではUFOとの交戦が行われているらしい。


『あのままではメモリーエネルギーを吸収できず、船は落ちてしまうであろう。この星の人間は好戦的だな』


「……最近のお掃除ロボは応答機能まであるのか。凄いなあ……」


 首を傾げながら親父が出勤していった。


『最後まで何も分かっていなかった。凄い御仁だな……!!』


「ね? あの何があっても絶対に自分の常識が揺らがないところが彼のいいところなのよ」


『確かに、巌のように固定されたメモリーエネルギーを持っている人間だった』


 ダミアンからそう評価される親父、恐るべし。

 俺は、あの人が頑固なだけではないのだなと評価を改めることにしたのだった。


「ではダミアン、飯を食ったから一旦俺の部屋だ。いいか、夏休みには恐ろしい罠がある」


『罠だと……!? ナツヤスミというものにそんなシステムが存在しているのか?』


「宿題と言ってな……。これを日々クリアしていかないと、最終日に膨れ上がって牙を剥く。例え俺がナツヤスミにハッピーエンドを迎えたとしても、最後の敵がそのハッピーを破壊しに来るんだ」


『なんということだ!! ハルキ! そのシュクダイとやらを倒しに行くぞ!』


「ああ! 九時になる前にケリをつけるぞ! 用事があるからな!」


「あら、中学生の頃はいつまでも宿題に手を付けなかったのに珍しい……。高校生になって春希も大人になったのね……」


 母が何やらニコニコしている。


『うむ。ナツミとの海水浴デート活動が待っているからな』


「んっ!?」


 母の笑顔の質が変わった。


「母さんね、今デートって聞こえちゃったの。なつみさん? んんん? やっぱり美来ちゃんとは違うのね? へえー。ほおー。水着を買った時に聞いた先輩さん? もう、いつまでも子供だと思ってたらあっという間におとなになっちゃうものなのねえ……。バッチリキメてくるのよ。はい、これ軍資金お代わり」


 俺のポケットに五千円ねじ込んできやがった!


「付き合ったら絶対家に連れてきてね……!!」


「わ、分かった」


 すげえ迫力だ。

 母親というのは、息子に彼女ができるとめちゃくちゃ嬉しいものらしい……。


 こうして宿題に挑む俺は、選択式の問題をチョイスして答えられるものをサクサク終わらせた。

 文章題は明日の俺に任せる……!


 さあ、行くぞ海水浴!!


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