第15話 お約束のチャラい奴らだ!

 先輩からもたっぷりと日焼け止めを塗りたくられてしまった。

 まあ、さんざんなつみ先輩のわがままボデーを触らせてもらったのだから、仕方あるまい……。

 あの人、文系なのになんであんなに体ができあがってるんだ……?


 そんな謎を抱きつつ、「そろそろ海に行きましょう先輩! 俺、浮き輪取ってきますよ!」そう告げる俺なのだった。

「よろしく頼む。浮き輪は物凄く大きいらしいからな。率先して重量物を運搬する役目を請け負ってくれるとは、流石男の子だ……」


 ははは、褒められてしまった。

 もっと俺の男らしいところを見せますよ先輩。

 そして! なんかいい感じになる!!

 男は下心120%で生きているものなのだ。


 俺はビュッと走って海の家にやって来た。

 そこでは、ダミアンが幼女に転がされて『ウグワー!』とか言っている。


「お前また捕まっているじゃないか!」


『いや、さっきとは別の個体だぞハルキ!』


 幼女は俺とダミアンを見比べて、


「ボールさんお兄ちゃんのボールさんなの?」


 利発だ!


『いかにも、ダミアンはハルキのためのダミアンなのだ』


「そっかぁ……じゃああげる!」


「えらい!」


 人様の子供をナデナデすると色々問題になるかもなので、めちゃくちゃ褒め称えておいた。

 そしてダミアンを回収……するには、俺の両手は浮き輪で塞がる。

 ……浮き輪?

 手渡されたそれは、もはやビニールボートと言ったほうがいい代物だった。


「俺は! こいつを運ぶ! ダミアン手伝ってくれ!」


『分かった! ぬおおおーっ!! メモリーエネルギー全開!!』


 ダミアンがボールみたいな体から、ニューっと腕を伸ばしてビニールボートの後ろを支えてくれる。

 心強いぜ相棒!

 こうして俺とダミアンで、えっほえっほとボートを運んできたのだった。


 すると……。

 なんかなつみ先輩がチャラっとした感じの男たちに囲まれているではないか。


 こ、こ、これはーっ!!


「行くぞダミアン! なつみ先輩のピンチ! そして俺が再びBSSされてしまうピンチだ!!」


『分かった! ところBSSとはなんだ、ハルキ?』


「僕が(B)先に(S)好きだったのに(S)の略だ! 広義のNTR(寝取られ)だな!」


『新たなデータだ! ダミアンの回路に刻んでおこう』


 ハハハ、また一つ賢くなったなダミアン。


 俺ダミアンを拾い上げ、チャラチャラした男たちの股間から先輩のところへ滑り込んだ。

 見ろ俺のこの到達速度をーっ!!

 凡百のBSSされる主人公たちとは危機感が違うぜ!!


「うわーっ! なんかスライディングして隙間から入ってきた!」


「お、俺の股下をくぐって!」


 動揺しているな、チャラチャラした男たちよ。

 俺はすっくと立ち上がった。


「迎田くん! よ、よく来てくれた……! 私はこう、グイグイ来る系の男が苦手なんだ……!!」

 

 なつみ先輩が青い顔をしている。

 本当に怖かったんだな。


 俺の後ろに隠れたなつみ先輩を見て、チャラチャラした男たちはチッと舌打ちした。

 な、なんというお約束どおりの連中なんだ……。


「なんだ、彼氏かと思ったらひょろい子じゃん」


「ねえ彼女、弟のおもり? やっぱさ、男って独り立ちしないといけないと思うわけよ。だから彼は男として送り出してやって、お姉さんは俺たちと新たな人間関係を育んでいくというのはどうよ?」


「具体的には体と体の人間関係を……」


「露骨過ぎるってー!」


 なんかギャハハハハとか笑っているぞ!

 それにこいつら……。

 纏う気配が田舎者のそれではない。

 

 さては都会から来た大学生ではあるまいか?


「ひいー」


 先輩がか細い悲鳴をあげた。


「先輩マジでこういう輩が苦手なんですね?」


「うむ、私は友人間では男の好みが変だと言われていてな……。ステータスで言うと知略策謀系の男性が好きなんだ」


「なるほど、武人はいかんと」


 俺と先輩がぼそぼそお喋りしているので、チャラチャラした男たちはカチンと来たようだ。


「おいぃ! 無視すんなって!」


「俺等が下手に出てやってるからってさあ!」


 うおーっ、掴みかかってきた!

 俺は先輩ごと後退する。

 柔らかい胸がむにっと背中に当たったぞ!


 ハハハ役得役得!

 それにこの男たち、酒臭いぞ。

 酔っ払ってるのか!


「このガキ、いちいち挙動がムカつく……!!」


「ひょろい文系っぽい癖によぉ!」


「いや、俺は父からもらったトレーニング機具で今日という日のために体を鍛えた」


「そうなの? それはそれで立派だけど、俺たちも下半身的に引っ込みがつかないのよ。クソガキぃ!」


 一瞬素に戻ったな……。

 だが、これは俺と先輩のピンチであることに代わりはあるまい。


 俺はこういう危地を、己の力だけで切り抜ける……なんてことは考えない。


「ダミアン! 吸え!!」


『その言葉を待っていたぞハルキ! シュゴゴーッ!!』


 俺が抱えていたダミアンが展開した。

 バスケットボールのような姿の正面に開いた空間に、不可視の何かが吸い込まれていく。


「なんだこれ!? なん……だんだ、これ? こ……? ばぶー」


「あ、吸い過ぎ吸い過ぎ」


 ダミアンの頭をペチペチ叩いたら、ちょっとメモリーが男たちに戻っていったようだった。

 彼らはポカーンとして立ち尽くしている。


「あれ? なんで俺らここにいるんだっけ?」


「あっつ! 夏!? いつの間に!?」


「水着だぞ! どういうことだ……!?」


 男たちが大混乱だ。


「お兄さんたち、あんたたち、なんか酒のんで騒いでたと思ったらいきなりそうなってたんですよ」


「えっ、そうなの!? ああ、確かに酒くせえ……」


「俺ら記憶を無くすまで飲んだのか……」


「記憶をなくして春からいきなり夏になってるのやべえって。もう酒は控えようぜ……」


 すっかりドン引きしてしおしおになった彼らは、トボトボと去っていったのだった。

 三ヶ月くらいの記憶を吸われたかあ。

 そーっと俺の後ろから顔を出す先輩。


「い、いなくなったか? 私は普段は強そうな態度だが、基本的に小心者なんだ」


「知ってます……!! ダミアンがやってくれましたよ。彼らもやり過ぎまでは行ってない感じなんで」


「そうか……! 良かった。私のために争わないで……というのは自意識過剰だとは思うが、そのせいで誰かが不幸になるのも辛いからな」


「優しい人だなあ」


 キュンキュンするぞ。


「それじゃあ優しい先輩、俺とダミアンが運んできたビニールボートで外海に漕ぎ出しませんか」


「いいね。でも外海は危ないから流されないようにしないとね」


 さあ、いよいよ海に入るぞ……!

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