第21話 企画書提出と新たな部活動の朝
夜。
俺は企画書を送った。
先輩からは『いいねいいね!! じゃあこれで行こう!』とハイテンションな返事があったのだった。
よしよし……。
我が身を張ってユタカから情報を仕入れた甲斐があった。
その結果、まずい状況が進展した気もするが。
とにかく、カラオケでカッスカスになった喉はまずいので、俺はのど飴を舐め、夕食も刺激の少ないものにした。
母はまた原稿を前に唸っており、これは夕食を作れる状態ではない。
そんな時はどうするか?
俺が作るのだよ……!
「クリームシチューでいい?」
「わあい、お母さんクリームシチュー大好き!」
ということで、冷蔵庫にあったカレーやシチューの素からクリームシチューを選択し、野菜を圧力鍋で一気に柔らかくしてからブイヨンとか色々放り込んで速攻で作った。
全然煮込んでないが煮込んでるような味を擬似的に生み出したクリームシチューだ!
そして白飯!!
我が家はクリームシチューで飯を食う。
「ご飯よー!!」
俺が呼ぶと、のそのそと母がやってきた。
父はまた仕事で遅いので、シチューを取り分けて冷蔵庫へ。
レンチンしても十分に旨かろう。
こうして喉とお腹に優しい夕食を平らげ、俺は翌日に備えてさっさと寝た。
その夜、美来がPickPockで動画をアップ!
朝になった俺はそれを見て衝撃を受けた!
「紐じゃん!!」
大変過激な水着を身にまとった彼女とマッシュルームカットが、見覚えのある砂浜で一緒にウェイウェイやっている動画だったのだ!
だが!
今の俺にダメージはない……。
「美来、お前はお前で愛を掴むがいい。そのマッシュルームカットで女を殴ってそうな男と……!」
『かなり怒りが混じっているな』
「生涯許さん……。許しは許し、怒りは怒りで別腹だからな……」
スマホを閉じて、朝食。
「ハルキ、昨晩のシチュー美味かったぞ……。疲れた体に染み渡った……」
「ありがとう。父さんもあんま無理すんなよ」
「なに、一家の安定した収入は俺の双肩に掛かっているからな。体を壊さぬ程度に今日も頑張ってくるよ」
そんな話をしていたら、本日のテレビのニュースが流れる。
『紛争地域の兵器と兵士が、次々に海に連れ込まれるという現象が』『助け出された兵士たちは戦時下の記憶を全て失っており───』
「へえ、大変だなあ。早く戦争が終わるといいな……」
父が深刻そうな顔で呟いた。
相変わらず何も理解してなさそうな事を言うのだが、これくらい自分の中の現実が強固な方が精神が安定するのかも知れない。
「お父さんの常識は特殊合金なみの頑丈さだからね! 地に足がついてるどころか地に足が埋まってるの! そこが素敵……」
「ははは、褒めても何も出ないぞ。じゃあ行ってくる」
なんか行ってきますのキスみたいなのをして出勤していったぞ。
地に足が付いてない母と、地に足が埋まっている父で未だにラブラブなんだよなこの人たち。
「春希もラブラブになるのよ」
「おう、頑張る」
「狙いが定まって否定しなくなってきたわね。いい? 下手な照れは!! 標的を逃がすことになるわよ!! 母さんは父さんに自分から迫ってモノにした!! 攻撃しなければ標的は落とせないわ!!」
「おう!! やるぞ俺はやるぞやるぞやるぞ!!」
『どっちをだハルキ?』
「!?」
母の目がカッと見開かれた。
「春希、あんたまさか……もう既に二股……!? 美来ちゃんに振られてから何日も経ってないのに一瞬で肉食獣としての本能をあらわに……!?」
「待て母さん! 妄想を飛躍させるのやめてくれ! 俺は! 先輩一筋で行く……!!」
「本当ね? 本当なのね春希? この国では重婚は犯罪だからね……?」
「昨日の俺と同じこと言ってる」
やっぱり親子だなあ。
やはりユタカは遠ざけねばならぬ。
どれほど相性ぴったりだろうが、そんな相手がメインヒロインにならないラブコメなんか幾らでもあるからな……。
俺はその日の分の宿題を必死に終え、あらゆる後ろめたさを消し去った。
その後、PickPockに先輩と行った一昨日の海の動画を、二人の顔だけは隠した状態でアップしてやった。
美来、俺の充実っぷりに恐れおののくがいい!!
「では行くぞダミアン! 喉はバッチリ回復、一昨日の疲労も残ってない。今日分の宿題は終わり、俺はまさにパーフェクトだ!!」
『うむ、ハルキが充実していることが表情と動きからも分かる。今日もまた、極上のメモリーエネルギーをダミアンに見せてくれ!! ところで今日行く場所のメモリーは』
「ああ。かなりメモリーが凄いところだと思うぞ……」
『おおーっ! 期待せざるをえない』
ダミアンがリュックの中で小さくバウンドした。
暴れるな暴れるな。
お前を見つけようとする人たちがいるかも知れないだろ。
……と思ったら、空調服のしかめっ面の人たちの数は明らかに減っていた。
ダミアンが落ちてきてからこっち、この町では何一つ変なことが起きてないからな。
それに、このバスケットボールロボは何も危険なことなんかないぞ。
俺の恋路をこうやって応援してくれているだけだ。
実に頼れる相棒なのだ。
じゃあ、今日も電車で先輩と合流しようか。
本日のデート……いやいや、部活動が始まるのだ。
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