第4話 出現、幼馴染
なつみ先輩と喋ってかなり気持ちが軽くなった。
日差しは死ぬほど暑いが、俺のハートはちょっとだけクールになったのだ。
日陰を渡るようにして校舎にたどり着いた。
昇降口まで来るとずいぶん涼しくなる。
昔は学校にエアコンが無かったらしいが本当だろうか……?
夏場は死ぬじゃないか。
『おお……メモリーエネルギーに満ち溢れている……。ちょっと食べてもいいか』
「……ちょっとくらいならいいんじゃないか?」
『ありがとうハルキ! ダミアンをガッコウにつれてきてくれて! うおお、美味い! 上質なメモリーが美味い!』
ダミアンがキラキラ光っているな。
こいつは本当に、どういう仕組みになっているんだろうか。
ダミアンがメモリーエネルギーとやらを吸った跡の場所は、こころなしかちょっと色褪せて見えた。
ダミアン曰く、『人間たちがここで活動することで、また輝きを取り戻すだろう』とのこと。
教室の扉を開けて足を踏み入れると、俺の視線は自然に彼女を探してしまう。
小学校から高校生になった今まで、ずっと同じクラスであり続けた彼女だ。
いや、少子化のせいでクラスが減ったって言うけどな、2クラスしかなかろうが常に1/2の確率をくぐり抜けて同じクラスだったんだぞ?
絶対こんなん、運命だって思うじゃん。
だが!
運命では!
無かったのだ!
あの女、昨日別の男と付き合ったって動画で報告して来やがったからな!
「春希!」
「うわあ! いたあ!!」
美来だ!!
俺は悲鳴を上げて飛び上がった。
「はあ!? なんであたしに話しかけられただけで会ってはならないお化けに会ったみたいな顔して見たこと無いくらい高くジャンプしてんの!?」
「それには深い理由がだな……」
大声をあげてしまったので教室の注目を浴びたが、同時に俺の緊張もほぐれた。
じっと見ると、他人の彼女になった幼馴染はやはりなかなか可愛くて、脳の破壊が進む心地がする。
「もしかして……昨日の動画のこと?」
「お、お、おう。か、彼氏ができたんだってな。おめでとう」
俺は歯ぎしりをしながら、言葉を絞り出した。
「すっごい目してるんだけど……。あ、ありがとう……」
「なになに!? どうしたの?」
俺たちのやり取りに顔を突っ込んできたのは、自他ともに認める美来の親友、大関ユタカだ。
ツーサイドアップのちょっと茶色っぽい髪で、猫目で顔も猫っぽい。
いわゆる、ヒロインの友人キャラみたいな女子だ。
「ユタカ聞いてよ。春希があたしを見てめちゃくちゃびっくりしてて」
「へえー。やっぱあれじゃない? 奥さんが今日は一段ときれいだからびっくりしたとか……」
「やめてよユタカ。あたし、彼氏作ったんだから」
「へ?」
ユタカの猫みたいな細い目が、見開かれた。
そして、俺を指差す。次に美来を指差す。
「違う違う。同じ部の友達の紹介でね、二年の茸田先輩」
「あ、そうなの……」
「で、報告の動画を春希に送ったらさ」
「動画を送ったの!? はあ!? そりゃあんた人の心が無いわ!?」
「ええっ!? なんであたしが責められてるわけ……!?」
周囲の、俺と美来の関係を知っていた連中も、口々に「人の心がない」「小山内は人の心がわからぬ」とか言っていたのだった。
まあ、俺と美来が小学校からずっとつるんでるってのはみんな知ってるもんなあ……。
そこで突然、NTR報告動画が送られてきたのだ。
端的に言って地獄であろう。
良心ある男たちは皆、目からハイライトが消えた。
自らに起こった場合を想像してしまったんだろう。
変人の数名は目がキラキラ輝いた。
NTR好きめ、てめえら人間じゃねえ!
だが、お蔭で気持ちが軽くなった。
俺は席につく。
すぐ隣がさっきの猫女、ユタカだ。
リュックは後ろのロッカーへ。
すると、そこからバスケットボールが転げ落ちた。
ダミアンだ。
彼は慣性を無視してゴロゴロ転がり、俺の机の椅子の下に潜り込んだ。
『ハルキ! 凄まじいメモリーエネルギーを感知したぞ! あのミクという人間はメモリーエネルギーの宝庫だ! ハルキと二人でいることで、この地区の大部分を侵略可能なほどのエネルギーが得られるぞ!』
「学校で喋るな……! 小声でな、小声で……」
『分かった』
幸い、ホームルーム前で教室がざわついている。
ダミアンの渋い声は聞こえなかったようだ。
クラスの話題は、すっかり俺と美来が破局した話で持ちきりになってしまった。
みんな同情的な目や、あるいはざまぁ、みたいな目で見てくる。
後者はモテない男女連中だ……。
俺も今日からお前たちの仲間入りだよ……!!
いや、今までもずっと仲間だったのかも知れないな……。
俺と美来は、両思いでもなんでも無かったのだから。
おお、辛い。
『シュゴーッ』
あっ、楽になった!
ダミアンがまた俺からメモリーエネルギーを吸い上げたな?
便利なやつだなあ……。
『素晴らしいエネルギー量だ! ハルキ、ミクとまた関係を戻すことはできないのか』
「できないだろうな……。なんかさ、人間って相手に対して、一回しか印象を変えられないんだってさ。つまり、一度どうでもよくなったらもう、ずっとどうでもいいままなんだ」
『なるほど、参考になる』
隣の席にユタカがやって来た。
なんか、お喋り好きな彼女らしくなく、妙に神妙な面持ちだ。
「この度はご愁傷さまです」
「どうもご丁寧に……って、そこまで大事じゃねえよ」
「あら、なんだかさっきより落ち着いている? 失恋のショックから立ち直りつつあるのかい迎田くん」
「ま、まあな。いつまでも引きずっていられないもんな」
実際は、ダミアンが俺の中にある美来の思い出を吸い取っているんだけど。
……こいつ、便利だけど何気にヤバいんじゃないか……?
『ハルキ! ハルキ! この人間を彼女にしたらどうだ!』
「やめろダミアン、見る女子片っ端から俺とくっつけようとしてないか!?」
小声で椅子の下のバスケットボールと会話し始めた俺を見て、ユタカはまた神妙な面持ちになるのだった。
「かわいそうに、ショックのあまりおかしくなってしまった」
おかしくなってねえよ!
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