第23話 ダブルデートなどではない

 さて、始まってしまった敵との遭遇!!

 美来め、まさか今日という日にブッキングするとはな!

 マッシュな野郎は最初は俺などアウトオブ眼中だったのだが、今は俺を無視できまい。


「ちっ、クラスの陰キャだと思ってた女があんな良い体をしてたなんて……しくった」


 マッシュめ、何か言ってやがるぞ!

 やらせるかよ!

 なつみ先輩に何かしようとしたら、俺がお前を赤ちゃんまで戻してやるからな!


「君さ、なんて目で見てるの。俺、敵じゃないよ?」


「いやいや、マッシュ先輩」


「マッシュって言うなよ」


「マッシュルーム先輩」


「マッシュルームじゃねえって!」


「なつみ先輩は、俺が超絶仲良くなりますんで……。あなたの入る隙間はない。永遠にない……!!」


「こ、こいつ、なんて凄みのある笑みを……!!」


 男同士でバチバチに火花をちらし、俺はマッシュと別れた。

 なつみ先輩と合流する。


「お待たせしました!」


「茸田くんと一緒にいたが、どうしたんだ? 私にはこう、君が彼に対抗意識を燃やしているように見えたが……」


「ははは、ヤツはおしまいですよ。何かされたらすぐ俺に連絡してください。再起不能にします」


「迎田くんの目が据わっている……!!」


『うむ。ハルキは不退転の決意をしたのだ。あのタケダという人間はナツミに向かって直結を望むメモリーを垂れ流しているが、隣にいる美来という人間がいるのに、方向がナツミに向いている。あれはなんなのだ? 争いを起こそうとしているのか?  ハルキが宣戦布告されたなら、ダミアンはこの星を侵略するために派遣された戦闘ユニットとしての機能を行使せざるをえない。受けて立つぞハルキ!』


「ダミアンがやる気だ! やるぞダミアン! マッシュを叩きのめそう」


『ああ。徹底的に叩き潰して粉砕し、再起不能にする。そうすれば争いは起こらず、平和とはこのようにして生まれる』


「至言だ」


「そこまでやらなくても……」


「その優しさに絆されるとヒロインがNTRされるんだ。俺は詳しいんだ。ここで絶対に退かない。絶対にだ……!! 現に俺が今ユタカに取られそうになっているからな……」


「ユタカ?」


「なんでもないなんでもない! 俺は! 意志を強く持ちます! 先輩一筋で!」


 おっと、ここまで言ったら告白じゃないか!

 先輩に勘付かれてしまったな、この思い。ここは一足早く告白することになってしまうか……!?

 と思ったら、先輩はパタパタ走って最初の檻を覗き込んでいるのだった。


「迎田くん! ここ! ここ! サーバルがいる!! サーバル!! 顔小さーい」


「せ、先輩が童心に返っている……!!」


 でも、ああいう先輩もかわいいな。

 俺は駆け寄り、一緒に「サーバルだー」と目を輝かせることにした。


 ここは肉食獣が並んでいる列なんだな。

 しばらく、転がってるサーバルを眺めたあと、隣に移動する。

 ハイエナだ。


 思った以上にでけえ……。

 これは人間は勝てないな……。


『見られている』


 ダミアンがリュックから顔を出して、ハイエナと見つめ合っていた。


『我々が檻を眺めている時、檻からも我々は見られているのだ』


「深いこと言ってるな。でも、動物園の動物も俺等がこないと暇で鬱になったりするらしいですもんね」


「そうなのか……。動物も案外私たちに似ているのかもねえ」


 そんなやり取りをしつつ、次にキリンを見た。

 でかい。

 引くほどでかい。


 先輩と並んで、ポカーンと見上げていた。

 キリンを見た園児が、あまりにでかくて泣き出した。

 そりゃあ泣くわ。

 キリンはデカ過ぎて怖い。


「でも、これで草食動物なのだから、世の中は不思議なものだ」


 先輩が気を取り直してそんなことを言ったら、キリンの頭に鳩が飛んできて止まった。


「おっ、平和的な光景ですよ先輩」


「本当だ。キリンの頭に鳩が……」


『こ、これは!』


 ダミアンが何か警戒音を発する。

 なんだ!?

 と思った瞬間に、キリンが鳩をパクっと食った。


 もりもりしてから飲み下す。


 俺も先輩も、呆然とする。


「は、鳩を食った」


「聞いたことがあるぞ。足りないタンパク質を補給するために、草食動物も肉に当たるものを摂取することがあると……。そうか、これが……しまった!! 記録していない!」


 先輩が焦る。

 だが、安心して欲しい。


「ダミアン!」


『ダミアンの見たものは全て記録してある。容量を圧迫するので毎日夜にリセットしているが。キリンがハトを食べた動画を送ろう……』


 ダミアンの目がピカピカ輝き、なつみ先輩のスマホに動画が送信された。

 こいつもしかして、メアドや電話番号が分からなくても、強制的にデータ転送できるのでは……!?

 すっかり忘れていたが、ダミアンは謎の超文明が作り出したロボットだった。


 もしかして、嫌な記憶を吸わせたり、嫌な奴の記憶を吸わせたりする以外の活躍場所があるのではないか……。


「迎田くん! ふれあい動物園だそうだ! 山羊にエサをあげられるぞ!!」


「もう先輩が移動してる! フットワークが軽い人だなあ……」


 だが、ああやってはしゃいでいる先輩は、年相応の女の子という感じがしてとてもかわいい。

 まあ普段からかわいいが。


 ところで……。

 山羊の餌やりを終えると、猿山。

 そこから先はペンギンのいるプールだ。


 美来とマッシュは俺達と逆方向に回っていっていたから、恐らくあの辺りでかち合う……!

 戦いの時は近いのだ。

 俺は山羊のエサを買いながら、来たるべき時に備えるのだった。


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