最終話 侵略ロボといっしょ

 恐ろしく濃厚で、俺の人生を大きく変えた夏が終わった。

 夏前にやって来たバスケットボールロボは、夏の終わりに去り、秋が見えてきた新学期には俺の部屋に静寂が戻ってきた。


 いや、静寂と言うんだろうか?


 ピコン、とLUINEの通知がある。

 なつみさんだ。


 今日の部活……のフリをした学校デートの話。

 俺と彼女は、完全にバカップルになった。


 人目を盗んで、どこでもイチャイチャする。

 表向きは付き合ってないふりをしているので、人気がなくなった瞬間にイチャつくのがスリルに満ちていて大変燃える。


 この刺激は凄い。

 俺たちはきっとずっと燃えていける。

 ちょっと変わった性向に手を出さないようにすればいいだけだ……。


 多分大丈夫なんじゃないかな。

 キャンプの夏から一ヶ月くらい経過して、なつみさんは普通に月のものが来た。

 互いに胸をなでおろしたものだ。

 今後は本当に注意しよう、そういうことになっている。


 なお、あれ以来大人の接触は無く、機会を伺っているところである。

 なつみパパさんの了承を得ねばならないからな……。

 次のチャンスはクリスマスくらいではないか。


 プレミア感高いなあ……。

 これは新鮮さを失わない俺たち、ずっと燃え上がっていけそうだ。


「おや? 花咲からも……。なんだこれは……うおーっ!!」


 それは、リング上でマッシュと対決した花咲が、ボコボコになりながらもマッシュをボクシングでKOした写真だった。

 お互いヘッドガードを付けてるのに、なんでそんな顔になるんだ。


 だが花咲は大変嬉しそうに、美来に肩を支えられながら拳を突き上げていた。


『ウェーイ! ハル見てる~? 美来ちゃんは晴れて俺の彼女になりましたー!』


「すげえええええ! おめでとう、と!」


 おめでたい感じのアニメキャラのスタンプを流してやる。

 向こうも、アザースと雑に頭を下げるスタンプを返してきた。


 そうか……。

 マッシュを討伐し、美来を手に入れたのか。

 お前、小学校の頃からずっと片思いだったもんな。


 美来が俺を振ったことでチャンスが訪れ、気兼ねなく倒せる相手と全力で殴り合ってついに美来を手に入れたのか。


「それでどこまで進んだんだ? エッチした?」


『ばっかお前、本命なんだからそういうのはもっとドラマチックなシーンでいただくものだろうがよ! クリスマスだよクリスマス……』


「こいつ、根っこの部分がロマンチスト過ぎる」


 まだるっこしいので音声会話になり、花咲とわいわい喋った。


『そんなハルはちょっと声の感じが違うけどさ。もしかして』


「卒業した……!! 俺も大人の仲間入りだ。だが、まだ未成年だし最低でも高校は出ないと就職ヤバいのでまだまだ子どもだ……」


『現実的~。俺もウェイウェイやってっけど、やっぱ高校は出ておきたいよな』


 そんな感じで盛り上がり、そのうちダブルデートしようぜ、という花咲の提案を「考えとく」と応じて、やり取りが終了した。

 ちなみにユタカはキャンプ以降、俺への色目を使わなくなっている。


 自分なりに男を育て上げてゲットする計画を立てているらしい。

 なつみさんに影響されたな?


 俺の環境は激変していた。

 彼女ができて、幼馴染と幼馴染が付き合い、母の小説はまたスランプになり、父は何も変わっていない。

 おや?

 案外変わってないな……。


 美来のPickPockは……『新しい彼氏ができました!』となっている。

 うーん!

 変わっちまったな美来!!


 幸せになってくれ。

 俺は俺で今幸せになっていっているところなので!


 こうして、やろうと思ったことを全て終えた俺。

 明日はなつみさんと何をしよう、なんて考えながらベッドに寝転がる。


 まだカーテンを引いてない窓からは、空が見えた。

 この辺りは街灯がそこまで多くないので、まあまあ星空が見える。


 空からキラッと光が見えて、流れていくものが見える。


「流れ星か。流れきる間に三回願いを言うなんて無理だよな」


 そもそも今の俺に願いなどない。

 大体叶った気がする……。


「そうだな……ダミアンとまた会えますように……とか?」


 呟いてみたら、それはいいなと思えてきた。

 あのバスケットボールロボ、いきなりいなくなってしまったもんな。

 あいつには世話になったし、母も「ダミアンちゃんまた戻ってこないかしら」と言っている。


 窓を開けると、そろそろ秋めいてきた虫の鳴き声が聞こえる。


「また来てもいいんだぞ、ダミアン!」


 俺は空に向かって叫んだ。

 そうしたら……。

 また流れ星。

 さらに流れ星。またまた流れ星……。


「流星雨……!? そんなの、予報では何も言ってなかったはず……」


 空から無数の光が落ちてくる。

 なんだこれは。

 ああ、いや。


 俺はこの光景をこの間見た。

 それは地上から空に上がっていく、逆さの流星雨だったが。


 ということはこれってもしかして……。


『ウグワーッ!』


 空から叫び声が聞こえる。

 何かが落ちてくる。


 俺は立ち上がり、クッションを用意した。


「よーし、来い! ここに落ちて来い、ダミアーン!」


『ハルキー!! 戻ってきたぞハルキー!! 艦隊はハルキをモデルケースとして全人間キラキラメモリー計画を……ウグワーッ!』


「うおーっ!?」


 クッションで受け止める!

 なんか言っていたような気がするが、そんなことよりもこいつが戻ってきてくれた方が大事なのだ。


『ダミアンが艦隊中央司令部に連絡を取ってだな。もっと人間を、ハルキを見なければならないと伝えたんだ。だからダミアンはまたやって来ることができた。またよろしく頼むぞハルキ!』


「ああ、ダミアン! これからも一緒だな! ……そうだ。なつみさんにも教えてあげよう! 動画を撮ってだな……」


 全ては動画から始まったな、と思い出す。

 今は、俺が動画を撮影して送る立場だ。


『ダミアン、戻ってきました!』


 俺がダミアンを放り上げ、天井にぶつかったダミアンが『ウグワーッ!』と叫んでから落ちてきて、俺がキャッチする動画。

 なつみさんからはすぐに反応があった。


『お帰りダミアン! 明日学校に持ってきて! 私も会いたい!』


 もちろん。

 ダミアンを学校に連れて行くことは決定だ。

 それから、花咲とくっついて安全になったであろう美来とも普通に友達付き合いをして、ユタカとはほどほど距離を取って……。


「また楽しくなるな、ダミアン」


『ああ。ハルキのメモリーが、ダミアンは一番好きだ! これからもたくさんのメモリーを積み重ねていってくれ! ハルキの双肩にこの惑星の運命が掛かっているからな!』


 もちろんだとも。

 それにしても、いつも大げさな物言いをするやつだなあ。

 ダミアンらしいと言えば、らしいんだが。


 俺はバスケットボールみたいなそいつを、親愛の情を込めてポンポン叩くのだった。


『ウグワーッ』


 終わり

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侵略ロボがうちに居候して俺の恋を応援するラブコメ~あるいは俺と先輩と侵略ロボ~ あけちともあき @nyankoteacher7

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