第48話 色々アツい夜

 ばかな……!

 確か、着替えのパジャマを持っていったはずなのに!

 どうして今、なつみさんはほこほこに湯気を立てながらバスタオル一枚なんだ……!!


 いや、これはつまり、そういうことだろう!

 シャワーがちょっと長かったから、ずっと考えていたに違いない。

 そして結論……!


「しますか!!」


「し……しよう!!」


 そういうことになった。

 こうなってしまえば話は早い。


 俺は一気に服を脱ぎ捨てた。

 準備万端!


「あっ、せめて明かりを消してくれると……」


「あっはい。なつみさんを全部見られると思ったのに……」


 俺が大変しょんぼりしたので、彼女がハッとした。


「わ、分かった……!! 私も女だ! 最小限の明かりで行こう。全体が明るいと外から見られちゃうからね……」


「そうでしたね」


 俺、パン一なんだが。

 明かりを落とし、ベッド脇のスタンドライトだけにする。


 そうしたら、ダミアンがピカっと光った。

 あっ、結構明るい!!


『どうだ、明るくなったろう』


「これはこれで間接照明みたいで……エロい」


「うん、エロいな……」


 なつみさんが頷くと、ちょっと深呼吸した。

 そして俺の前でバスタオルをパッと脱いで……。


 あっあっ、こ、これは大変だ!

 俺もパンツを脱いで、極薄超感覚0.01mmの封を切った。


「ハルキくん早い早い! 私だってちょっと手順を知ってる。お互い初めてなんだ。試行錯誤しながら一応の決まりごとを守ってやっていこう」


「あっはい! そうですね! あの、男はこうなると知能指数が3くらいになるんで!」


「くう、た、耐えてくれ」


「耐えられません!!」


 サボテンくらいの知性になった俺は、なつみさんをベッドに押し倒した。


『うおおおお! 行け、ハルキ! 今だ! 抱け! 抱け! 抱けーっ!!』


「うおおおおお俺はやるぜやるぜやるぜ! じゃあそっとやっていきますからね……!! ハア、ハア」


「息が荒い荒い!」


 こうして初めての夜をスタートした。


「いたたたた! ストップストップストップ!」


「あっすみませんすみません、ちょっとソフトにします!」


「春希くんそろそろ声色がまずそうだけど、も、もうしてもいいよ……!!」


「ほんとですか!? 今、息が掛かっても発射するんで! じゃあ、失礼します!!」


「いたたたたた!! あ、でも我慢するからどうぞ!!」


「うおーっ! と……突破したー!! うっ」


 俺、決壊!!

 息が吹き掛かるだけでもブレイクするところだったのだ。

 物理的にも精神的にもあまりにも刺激が強すぎた。


「あっつ……って、春希くん……」


「なんでしょう」


「普通に熱いんだけど……」


「えっ? そりゃあ出るものは熱いですが、ほら、ここは極薄超感覚が守ってくれてて……うわーっ!! つ、つ、付けてない!!」


「生じゃないかー!」


 俺たち二人で大騒ぎである。 

 ぐだぐだだ!

 思った以上にとてもぐだぐだだ!


 だが、ちょっとだけの間だったが、俺となつみさんは確かに一つになったのだ。


「ま、まあそんな簡単にできないと思うし……できないよね? いや、できたらできたでできた時なんだけど」


「俺が責任取れないので、避けないとですね……あっ、じゃあ二回戦目は付けます」


「それでお願い……えっ、二回戦目!?」


「若いので……」


『いいぞいいぞ。ダミアンは満足だ……。今、衛星軌道上にいるダミアンの母艦も大いに盛り上がっている』


「中継してんの!? まあいいや……。俺はもう止められない……!」


「春希くん、せめて人間の理性を保って、知能指数30くらいで留まっていてくれ……!」


「努力します!!」


 努力はした。

 したので、今度はちょっと長く持った。


 いやあ……なんか色々満たされた感がありますなあ……。

 壁に持たれて虚脱している俺の横で、なつみさんが疲れ切ってうつ伏せに転がっている。


「仰向けだと胸が重くて悪夢を見る……」


「そんな理由が」


「君もこれから何回も私の寝相を見ると思うんだ」


「はっ、末永くよろしくお願いします」


 俺は姿勢を正して、深々と礼をした。

 なつみさんも気だるげに起き上がり、


「こちらこそお願いします」


 と礼をするのである。

 そしてすぐに……お互いに吹き出した。


「なんか私たち、変なカップルだなあ」


「そうかもですねえ。ってか、普通のカップルなんか世の中にはいないのかも」


 俺も賢者モードになり、冷静に話ができるぞ。


「だけどなつみさん。その魅力的なものを放りだしてもらっていると、またすぐに俺は元気になりそうです……」


「君の体力は無限大だなあ……」


 なつみさんは慌ててシャワールームに向かった。

 色々流して、今度はパジャマを着て出てきたのだった。


「じゃあ、寝ようか」


「寝ますか」


 正しい意味で寝るぞ。

 そう決めた俺たちの眼の前で、ダミアンが輝き出していた。


「おいダミアン、もう光らなくていいぞ」


「私たちも寝るからね」


『ハルキ、ナツミ。ダミアンは伝えねばならないことがある』


「なんだ改まって?」


 ダミアンは目に当たる部分をピカピカ光らせながら告げる。


『艦隊はこの惑星の軌道上を周回しながら、メモリーエネルギーを監視する事になった。君たちが最高のメモリーを提供してくれたおかげだ。我々は人間を見守る。ダミアンは戻って、彼らに素晴らしいメモリーを生み出す人間の活動について教えるために戻らねばならないのだ』


「戻る!? それってつまり……」


『さよならだ。ハルキ、ナツミ』


 ダミアンがふわりと浮かび上がる。


「お、おいダミアン!」


「ダミアン!」


 俺たちの伸ばした手をすり抜けて、ダミアンが輝きながら舞い上がった。

 一番高いところにある窓をガラッと開いて、出ていく。


 俺たちは外に飛び出していた。

 夏の虫の鳴き声が辺りから響いている。


 そんな中、ダミアンは空に上がっていった。

 そして。


 きっとここから遠く離れた場所から、次々に光るものが飛び上がっていくのだ。


 次から次に、光は空に上がっていった。

 輝きが尾を引き、空に向かって駆け上がっていく姿は……。


「逆さ流星雨だ……!!」


 俺となつみさんを包み込むように、逆さまの流星雨は続いたのだった。


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