第47話 どっちが先にシャワーを浴びる?

 あれはキスだったのかどうだったのか。

 俺の脳内で審議が分かれる中、BBQが終わった。

 カチャカチャ後片付けをする俺たち。


 なぜか無言である。

 俺はさっきの彼女のキスっぽいのの味を思い出していた。

 紛うことなき俺が作ったバーベキューソース味。


 いや、あれは唇というより舌では無かったか。

 ……なんてことを考えて無言なのだ。

 おお、目を閉じると思い出す感触。


『ハルキ、新しいタイプのメモリーが溢れ出しているな……。君といると実に楽しい』


 ダミアンずっと嬉しそうである。

 喜んでもらえて嬉しい。

 俺も今後のことを考えていて嬉しい。


 で、なつみさんも無言なんだが……。

 むっ、ちらっと見たらこちらをチラチラしている彼女と目が合った!

 なんだなんだ……!?


「どうしました? あ、残りは俺が事務所に方に持ってくんでいいですよ! 先にシャワー浴びててくれても」


「さ、先にシャワーを!?」


 なんか甲高い声で急に反応してきた。

 なんだなんだ。

 何を気にしているんだ!?


「君のほうが汗をかいているし、シャワーはお先にどうぞ……。私は後片付けしてるから」


「うっす」


 ただならぬものを感じて、俺はいそいそとゴミ出しに行く。

 事務所の裏のゴミ捨て場に、ゴミ袋に包んで分別して置くのだ。

 キャンプはマナーよくやらないとな……。


『ハルキ』


「どうしたダミアン?」


『ナツミはもしや、シャワーの前後の事を気にしていたのではないか? つまり、シャワーを先に浴びてしまえば自分が待つことになる。だが、ハルキが先にシャワーを浴びればナツミは待っているハルキのもとに行くことになる』


「ははあ、なるほど。ダミアンくん面白い推理だ。君は探偵になれるな……」


 そこまで軽口を叩いてから、俺はハッとした。


 それってつまり……。

 なつみさんはあれじゃないか?

 シャワーを浴びた後のことを考えている……!?


「おいおいおいおい、これは……これはひょっとして」


 早足で戻ってくると、なつみさんがコテージの前で待っているではないか。


「さ、先に入っててくれてもいいんじゃないですかね」


「いやいやいや、二人で来たんだし、せっかくだから二人で入れば……」


「そんなもんですかね……!」


 変なことを気になさる。

 そう思いながら、俺は先にシャワーを浴びるべくリュックをゴソゴソした。

 おっと、替えのパンツを取り出したら奥にしまってあった極薄超感覚0.01mmが!


「あっ!!」


 なつみさんがこれをバッチリ見つけて、凄い声をあげた。


「うわっ!!」


 俺も悲鳴をあげる。


「み、見ました?」


「見たような、見なかったような……」


 知らんぷりをしたな。


『凄いぞ! 今までにないメモリーエネルギーの盛り上がりだ! いいぞいいぞ! この勢いのまま行けハルキ! 抱けっ! 抱けーっ!!』


「うるさいが個人的にはそうしたくもある……。じゃあなつみさん、俺は先にシャワーを……」


 立ち上がると、俺の元気さんが凄いことになっている。


「あっー」


 なつみさんがまたも目撃して、慌てて背中を向けた。


「い、行ってらっしゃい……!」


「行ってきます。いやあ、なんかすみませんすみません」


「せ、生理現象でしょ? 仕方ないから……!」


 理解のあるお方で助かる。

 半畳ほどの脱衣ルームで服を脱ぎ、シャワーを浴びた。


「おほー、気持ちいい……」


 盛りだくさんのキャンプで、疲れた体に熱い湯が染み渡る気分だ。

 心も体もリフレッシュ!!

 だが、一度元気になった俺の元気さんは元気なままなのである!!


 この後に起こるであろう決定的な何かを、俺もこいつも理解しているのだ!

 仕方ないな……。

 ここでこいつを鎮めてしまってはむしろ無作法というもの。


 事務所で買ってきたシャンプーやボディソープなどを使って、できうる限り自らをピカピカに磨き上げ、シャワーで泡を流してから水気を取る……。

 そして、シャツとパンツと短パンを装備。


 おっ、連続で元気になっているのは疲れたらしく、俺の元気さんが静まってきた。

 待っていろよ。

 お前の出番はこの後だ。


「なつみさん! シャワー終わりました!」


「はっ、はい!」


 なぜかリビングの椅子に座って何もしていなかった彼女が、ぴょんと跳ね起きた。

 そして着替えを手にして、浴室に消えていく。


 湯船があるから浸かってもいいんだけど、ゆっくりリフレッシュするという気分じゃないんだよな……。

 むしろこれから、究極の緊張が待っているような……!!


 おお、なつみさんがシャワーを浴びる音が聞こえる……。

 俺はハッとある事に気づき、流しに向かった。

 歯磨きである!!


 既になつみさんの歯ブラシもある。

 同じことを考えていたか……。


 俺はたっぷりチューブ歯磨きを使い、徹底的にブラッシングした。

 よし!!


 俺の全身はピカピカだ!!


『いいぞハルキ! 見違えるようだ! 誰よりも輝いているぞ!!』


「ありがとうダミアン!! 俺はやるぜ! やるぜやるぜやるぜやるぜやるぜ!!」


 雄叫びを上げる俺。

 そして、近くのコテージの迷惑だなと思って声を落とした。


 ベッドルームへ向かう。

 全身が熱を持ったように熱い。

 これより、決定的瞬間がやって来るのだ……!!


「ダミアンよ」


『どうしたハルキ』


「俺もなつみさんも初めてなんだが……。お前の仲間で、そういうことをやってる人たちを監視してるのはいたりしないか? そういうメモリーを転送してもらったりとか」


『可能だ。ダミアンとしてはハルキを助けるためになんでもするつもりだぞ。メモリーを送り込むか?』


「むっ、むむむーっ!!」


 俺は唸った。

 ベッドに倒れ、転がり、そのまま座禅のような姿勢で起き上がる。


「や、やめておく!! 俺は、俺のままで挑みたい! ここで失敗したとしても、それは即ち俺の糧である!!」


『いいぞハルキ!! ダミアンは感動した! ダミアンがハルキのもとにやって来たのは運命だったのだ! ハルキ、存分に初めてを味わうのだ……!!』


「ああ!!」


 覚悟は決まった。

 そして俺の傍らには、極薄超感覚0.01mm!


 やがて……。

 脱衣室に続く扉が開いた。

 そこから、ほこほこになったなつみさんが出てくる。


「おっ……お待たせしました……」


「ウワーッ!! 裸タオル!!」


 覚悟が決まった俺だったが、途端にグラグラに揺らぐのである!!



 

 

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