第32話 女友達は一緒に居て欲しい

「はい、神咲くん!パスタ出来たよ!」

「あぁ、ありがとう」


 パスタをテーブルの上に並べた秘桜は、俺の対面に座った。

 ……対面。


「他のパスタも試してみよっかなって思ったんだけど、神咲くんがどの味が食べられるのか聞き忘れてたから今日はとりあえず前お店で食べたのと同じナポリタンにしてみたよ!お店と比べたら美味しく無いかもしれないけど、できるだけ美味しいって思ってくれたら……嬉しいな」

「秘桜の作った料理だ、美味しいに決まってる……が、秘桜」

「どうかした?神咲くん」


 ……今日は一日中、秘桜が隣に居た。

 遊園地で歩いているときは常に腕を組んでいて、アトラクションを楽しんでいるときはほとんど離れることはなく、昼食を食べる時も隣で、帰ってくる時すら腕を組んでいて、本当に今日はずっと秘桜と体を密着させていた────だからだろうか。

 秘桜が隣に居ないということが、今の俺にはとても違和感に感じられる……というか。


「……隣で、食べないか?今日はずっと隣だったのに、最後が対面っていうのは、ちょっと寂しい」

「っ……!う、うん!」


 そう言うと、秘桜はすぐにパスタの乗ったお皿を持って俺の横まで移動してくると、頬を赤く染めて言った。


「私も実は、神咲くんの隣で食べたいなって思ってたんだけど、今日は一日ずっと神咲くんの隣に居たから、夜ご飯食べてる時まで隣だと神咲くんが嫌がるかなって思って、対面に座ったの」

「俺がそんなこと思うわけない」


 俺がそう言うと、秘桜は口元を緩めて喜んだ表情を見せた。

 そして、二人で一緒にパスタを食べる。

 ……ケチャップと他の具材たちが、程よく混ざり合っていて、とても良い味だ。


「やっぱり、秘桜の料理は美味しいな……あのお店のパスタよりも美味しいかもしれない」

「そんな、褒めすぎだよ!……でも、嬉しい」


 その後もしばらくパスタを食べていると、秘桜が俺の顔を見て優しい笑顔で言った。


「私、神咲くんが美味しそうに何かを食べてる顔大好きなんだよね……もっと、見たいな」

「……秘桜の料理を食べられるなら、きっといつでもその顔が見られると思う」

「最近、平日は毎日私の作ったものを何か一つ食べさせてあげてるけど、私……そんなのじゃなくて、もっとちゃんと神咲くんにお料理作ってあげたい」

「それは大変そうだな」

「大変じゃないよ!神咲くんのことを思ったら、そんなの全然大変に感じないし、むしろ……したいことだから」


 そう言うと、秘桜はパスタをフォークで巻き、それを俺の口元に差し出してきた。


「……食べさせてあげてもいい?」

「……あぁ」

「あ〜ん」


 俺が口を開くと、秘桜はその口の中に差し出していたパスタを入れた……平日は毎日秘桜にこの食べ方で秘桜の作った料理を何か一つ食べさせてもらっているが、休日に秘桜の家で、それも今日一日ずっと隣に居た後でそんなことをすると、何かいつもと違うような気がした。

 今まで秘桜に食べさせてもらったときは恥ずかしさの方が勝っていたから気づくことができなかったが、秘桜に食べさせてもらった方が美味しいような気がする。

 秘桜が作ったナポリタンのパスタであることに変わりはないのに、何故そう感じるんだろうか。

 なんて思いながらも、俺は心のどこかでもうその理由に気が付いているが、そのことは特に考えないようにして感想を口にした。


「美味しい」

「良かった……」


 その後も何度か秘桜にパスタを食べさせてもらった後、二人でパスタを食べ終えると、俺と秘桜は玄関に向かった。


「秘桜、今日は一日ありがとう、楽しかった」

「……うん」


 そして、俺が靴を履こうとした────その時。

 後ろから、秘桜が俺のことを抱きしめてきた。


「……秘桜?」

「神咲くん……わがまま、言っても良い?」

「……なんだ?」


 俺がそう聞くと、秘桜はとても甘い声で言った。


「……今日は、一緒に居て欲しい」

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