第26話 女友達は浮かれる
放課後になると、俺と秘桜は一緒に飲食店へと来ていた。
特にこの飲食店で何か食べたいものがあった、というわけではないが、ご飯を食べながらなんとなく話そうということになったからだ。
二人でそれぞれ同じパスタを注文すると、パスタが届くまでの間雑談をする────が。
「ふふっ」
何か楽しめるような施設に来たわけでも無いのに、秘桜のテンションは何故か高い……というか、ずっとニヤニヤしていた。
「放課後になってからずっとそんな感じだな、どうかしたのか?」
俺がそう言うと、秘桜は首を横に振って楽しそうな表情で言った。
「ううん、ただ一日神崎くんと過ごせなかっただけだったのに、なんだかこうして神咲くんと二人で過ごせるのがとっても嬉しくて」
「そんなにか?」
「そんなにだよ!神咲くんは知らないと思うけど、私昨日本当に悩んでたんだから!」
今となってはこうなって明るく言っているが、秘桜の性格を考えればきっとと本当に深く考え込んでしまったんだろう。
「……理由も言わず避けて悪かったな、これからはちゃんと避けるようなことがあれば理由も伝える」
「理由があっても私のこと避けないで!」
秘桜は少し頬を膨らませながら言った。
「わかったわかった……でも、俺も昨日は結構苦しかったな」
「そう、なの……?」
「あぁ」
俺がそう言うと、秘桜は俺のことを慰めるように優しく言った。
「もう、しかもその理由が私の恋愛になるからなんて、本当に的外れも良いところだよ、そんなこと絶対ないのに」
そう言うと、俺の対面に座っていた秘桜は、俺の隣に移動してくる。
秘桜が俺の隣に来たことによって、一瞬甘い香りがした。
俺の隣に移動してきた直後、秘桜は俺の様子を窺いながら言う。
「このぐらいの距離の方が話しやすいから、隣でも良いよね?」
「別に良い」
屋上のベンチではいつも秘桜と隣で座っているから、この距離感自体は特に問題ない……が、対面を選べる状況でわざわざ隣を選ばれたということに少しも意識が向いていないと言えば嘘になるが、どうにかそれを表には出さない。
その後も軽く雑談を続けていると、注文していたパスタ、正式にはナポリタンが二人分届いた。
二人で早速そのパスタを口にする。
「パスタを食べたのは久しぶりだが、美味しいな」
「うん!美味しい……!……神咲くんと食べてるから、普段の二倍は美味しいね」
「俺がなんて言った?」
「な、何でもないよ!早く食べよ!?」
何故か食事の促進をしてくる秘桜だったが、俺は特に気にせず食べ進める。
そして、ふと思ったことがあったので、俺は聞いてみることにした。
「秘桜はパスタ料理とか作れるのか?」
「あんまり作ったことは無いけど、レシピがあれば作れると思うよ?」
「そうか、いつか秘桜の作ってくれたパスタも食べてみたいな」
「っ……!」
そう言うと、俺は再度パスタを口に含む。
お店というだけあって、味で言えば申し分ないのだが、やはり秘桜からの料理を食べてしまった俺には、味覚部分以外の何かが足りないように感じてしまう。
「か……神咲くん、よかったら次のお休みの日、私の家来る?」
「秘桜の家?どうしてだ?」
「……神咲くんが食べたいって言ってくれるなら、私お休みの日までにパスタ作るお勉強しておくから、食べて欲しいなって思って」
「何となく言ったことだから、そんなに気にしなくても────」
「ううん!私の作ったパスタも、神咲くんに食べて欲しいの!」
その秘桜の強い意志の込められた表情に、俺は思わず目を奪われる。
秘桜は元々顔からスタイルまで何もかも良いが、時々本当に目を奪われてしまうことがある。
それはきっと、秘桜の中で何かの気持ちが溢れそうになっている時だ……だが、俺はどうにか冷静さを取り戻し、秘桜に返事をする。
「そこまで言ってくれるなら、俺も食べたいと思ってるから食べに行かせてくれ」
「うん!……あ、あとね?いつか、神咲くんと一緒に遊園地とかも行きたいなって思ってるの」
「秘桜と遊園地か……楽しそうだな、それこそ次の休みの日に行くか?」
「……え!?つ、次のお休み!?」
「何か都合が合わないなら別の日でも────」
「う、ううん!次のお休みの日で良いよ!神咲くんと、遊園地……こ、これってデート────デート!?う、浮かれすぎだよ私……!でも、男女二人が一緒に遊園地に行くっていうことは、それ相応の仲ってことで、周りから見たら私たちがカップルに見えたり────」
秘桜は、俺には聞こえない小さな声で何かをずっと呟いていた────その後、今日はずっと秘桜のよくわからないほど高いテンションに振り回されてしまったが、結果として二人で楽しく話しながらパスタを食べ終え、次の休みは秘桜の作ったパスタを秘桜の家で食べることと、秘桜と一緒に遊園地に行くことが決定した……昨日胸を痛めていたのが嘘みたいに、秘桜と一緒に居ると本当に楽しい気分になれる。
そんなことを思いながら、俺は次の休みをとても楽しみにしていた。
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