第25話 神咲架は傍に居る
「私の邪魔をしたくないって、どういうこと?神咲くんがいつ私の邪魔をしたの?」
秘桜は俺の言葉の意味が理解できないのか、困惑を込めた声でそう聞いてきた。
それに対し、俺は思っていることをそのまま伝える。
「秘桜の恋愛についてだ、秘桜がその好きな人と付き合いたいと思ってるんだとしたら、どう考えたって俺の存在は邪魔でしかない」
「そんなことないよ」
「秘桜がそう言ってくれるのは嬉しいが、やっぱり俺の存在は邪魔だ」
「邪魔じゃないよ!だって、私は神咲くんのことが────」
何かを言いかけた秘桜だったが、途中で口を止めてその続きを話すのをやめた。
神咲くんのことが?
……俺に関係することならその続きは聞いておきたいところだったが、秘桜が口を閉ざしたのであれば無理に聞き出すようなことはしない。
その場に少し沈黙が生まれた後、秘桜が再度口を開いた。
「一つだけ言いたいのは、神咲くんは私にとって邪魔なんかじゃないってことだよ……私の恋愛相談に乗ってくれて、私と楽しく一緒に過ごしてくれて、お願いしたらお泊まりまでしてくれる……そんな神咲くんのことを、邪魔なんて思うわけないよ」
秘桜に背を向けた状態で、秘桜に手首を掴まれて立ち上がったまま動きを止めていた俺だったが、今の秘桜の声が震えていたような気がしたので秘桜の方に振り返った────すると、そこには今にも泣き出しそうな顔をした秘桜の顔があった。
「ひ、秘桜!?」
俺は、さっきまでの会話内容を全てどこかに置き去って、すぐに秘桜の横に腰掛けると、今は純粋に隣に座っている秘桜の心配をしていた。
「だ、大丈夫か?悪い……俺のせい、なんだよな?」
「そうだよ、全部神咲くんのせいだよ……」
そう言うと、秘桜は俺のことを抱きしめて言った。
「私がこんなに苦しいのも悲しいのも……普段の生活が楽しいって感じるのも普段の生活での喜びも、全部神咲くんのせい……全部、神咲くんのおかげなんだよ」
秘桜は、今にも泣きそうな顔で俺のことを見上げると、俺のことを抱きしめながら言った。
「だから神咲くん……もう、私のこと避けたりしないで……じゃないと私────」
「わかった、もう避けたりしない……秘桜の言う通り、俺たちは今まで仲を深めてきたのに、それをお役御免なんて言って勝手に秘桜のことを避けるなんておかしな話だよな……例えどんな理由があったとしても、俺と秘桜の今まで一緒に過ごしてきた時間はずっと残ってて、俺たちの関係性もそれと同時に深まってる……それは決して都合良く割り切れるようなものじゃない」
「神咲、くん……!」
秘桜は自分の顔を俺の体に埋めると、俺のことをさらに強く抱きしめて泣き始めた……俺は思わず秘桜のことを抱きしめ返したくなってしまったが、どうにかその衝動をグッと堪え、秘桜が泣き止むのを待った。
そして、秘桜が泣き止むと、俺は改めて秘桜に言った。
「秘桜、俺はもう秘桜のことを避けたり、離れたりもしない、秘桜の恋が実ろうと実らないと、俺はずっと秘桜の傍に居る」
「神咲くん……」
秘桜は、頬を赤く染めて俺のことを見てきた────かと思えば、今度は自分の腕が俺のことを抱きしめていることを確認すると、顔を赤くして俺のことを抱きしめていた腕を俺から離して慌てた様子で言った。
「ご、ご、ごめんね!気付いたら抱きしめちゃってて!」
「嫌だと感じてないから気にしなくていい」
「あ、ありがと……」
秘桜は安堵したように感謝を述べると、一度目を泳がせた。
「秘桜?」
そんな秘桜を不思議に思い秘桜の名前を呼ぶと、秘桜はどこか落ち着かない様子で口を開いた。
「神咲くん、あのね……一つ、聞きたいことがあるの」
「なんだ?」
秘桜はまたも頬を赤く染めると、俺の目を見て聞いてきた。
「神咲くんは……私のこと、異性として意識してるって言ってたよね?」
「……あぁ、言った」
「じゃあ、私のこと────」
秘桜が何かを言いかけた時、予鈴のチャイムが鳴った。
すると、秘桜は焦ったように立ち上がって、何かを誤魔化すように言う。
「か、神咲くん!早く教室に戻らないと!」
「あぁ、そうだな……でも、さっきは何を────」
「な、なんでもないの!なんでもないから、早く教室戻ろ!ね?」
「秘桜がそれで良いならそれで良いが……」
最後の最後で少々引っかかるところはあったものの、俺たちの関係性は元通り────じゃないな。
今回の一件で、俺と秘桜はの関係性は、元以上の関係性となった。
また関係性を進展させた秘桜との楽しい時間は、まだまだ続いていく。
この関係性は、一体どこへと行き着くんだろうか。
今の俺にはその行き着く先は見えないが、今は秘桜との楽しい時間を精一杯楽しむことだけを考えよう。
その日の放課後、俺と秘桜は早速一緒に出かけることとなった。
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