第24話 女友達は初めて怒る
「……好きな人に、避けられてる?」
恋愛相談があると聞いて屋上まで来たが、その相談内容が好きな人に避けられているということに、俺は驚きを覚えた。
今までの秘桜の話からは予測できないことを言われ困惑しながらも、俺は秘桜に聞く。
「……順調って話じゃなかったのか?どうしてそんなことに?」
「それが、わからないの……心当たりになりそうなことはあるにはあるんだけど、その出来事のことはそんなに気にしてないみたいだったから」
「なるほど、要因は他にある、か……」
そうは言っても、当の秘桜自身にその心当たりが無いのであれば、ここで俺と秘桜がいくら推測したとしてもそれは憶測の域を出ないため、その要因を探り解決するのは難しいと見たほうがいいだろう。
「そう……でも、どうしてかわからないから、こういう時はどうしたら良いのかなって思って」
「避けられてる度合いにもよると思う、どの程度避けられてるんだ?」
「軽く会話とかはしてくれるんだけど、どこかいつもより素っ気ないっていうか……私のことを遠ざけたいって感じが伝わってくるような気がするの……ううん、それもなんだかしっくり来ないから、具体的には本人に聞いてみないとわからないんだけどね」
軽く会話はしてくれるがいつもより素っ気なく、秘桜のことを遠ざけようとしている節が見られる……か。
「その相手が、今秘桜のことをどう思ってるかはわかるか?」
「友達、だと思うよ……あ、でも、異性として意識してるって言われたかな」
異性として意識してる……!?
そんなことを言われるほどに、秘桜とその好きな人の関係性は進んでいるのか────なんて雑念が入りそうになった頭をすぐに切り替えて、俺は口を開く。
「それなら、秘桜の好きな人っていうのが秘桜のことを避けてる理由は、秘桜のことを異性として意識してるからってことだと思う」
「でも、どうしてそれで避けちゃうの?」
「好きだからこそ接していると照れるとか、そんな感じじゃ無いのか?」
「ううん、そんな感じの人じゃないよ……何か特別な理由があって、私のことを避けてるんだと思う」
何か特別な理由がある、それはそうなのかもしれないが、それはさっきも言った通り今この場で考えても憶測の域を出ないから考えることはない。
それに────俺は、屋上のベンチから立ち上がると、秘桜に言った。
「異性として意識してると相手から伝えられてるんだったら、あとはもう告白すればいい」
「今のこの避けられてる状況で告白なんてできないよ!」
「……悪いが、今の俺に言えるのはこれだけだ」
そう言って屋上のドアの方へ歩いて行こうとする俺のことを、秘桜が俺の手首を掴むことで止めた。
「秘桜、さっきも言ったが────」
「だったら教えてよ……神咲くんは、どうして私のことを避けるの?」
秘桜にもう一度同じことを言おうとした時、秘桜が暗い声でそう言った。
俺が秘桜のことを避けている……口に出されると少し違和感を覚えるところだが、行動としては合っている。
奇しくも、秘桜は今秘桜の好きな人と俺の二人に同時に避けられている状況ということ……だが、だったら尚更、そんな状態の秘桜につけ込むように恋愛相談を受けて一緒に時間を過ごすなんていうのは最低な行為だ。
「確かに避けてるのかもしれないが、それはもう秘桜に恋愛相談の必要が無くなったからだ……相手に異性として意識までさせることに成功したなら、俺はもうお役御免だろ?」
俺がそう言うと、秘桜にしてはかなり珍しく……じゃない、少なくとも俺に対しては初めて、少し怒った様子で言った。
「私は神咲くんのことをそんな都合良く割り切れないよ!」
そして、続けて今度は少し落ち込んだ様子で聞いてくる。
「神咲くんのことを、そんな都合良く割り切れるわけ、ないよ……ねぇ、教えてよ、本当の理由は何?どうして私のことを避けるの?」
「……さっきも言った、秘桜の恋愛相談に乗る必要が無くなったから────」
「だったら、恋愛相談とは関係無しに、今日の放課後は一緒にお出かけしてくれる?今日が忙しいって言うなら今日じゃなくても、明日でも明後日でも良いよ……私と一緒にお出かけしてくれるの?」
秘桜と一緒に出かける、それも結局は秘桜と秘桜の好きな人の恋愛の邪魔になることだ、当然そんなことはできるはずがない。
「……」
「やっぱりおかしいよ、神咲くん……少し前まで私と仲良くしてくれて────」
「俺は、秘桜の邪魔をしたくないだけだ」
秘桜の言葉を遮り、俺は力強く本音を伝えた。
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