第23話 秘桜真琴はわからない
「神咲くん!今日は予定空いてる?よかったら、またお出かけしたいなって思って」
放課後になった直後に、隣の席の秘桜が明るい声で俺にそう話しかけてきた。
今日の予定は空いているし、今までの俺なら間違いなく一言でその申し出を承諾しただろう……だが、少なくとも今は。
「悪い、今日は予定がある」
「っ……そう、なんだ」
俺が嘘をついて秘桜の申し出を断ると、秘桜は少し落ち込んでいる様子だった。
こんな嘘をつくのは当然、秘桜の悲しそうな顔を見るためではなく、俺自身と秘桜のためだ。
このまま俺と秘桜が仲を深めたとしても、その先には……少なくとも、俺にとっては苦しくなるような現実が待っている。
なら、秘桜がその好きな人と結ばれるまでは適切な距離を保ち、秘桜が好きな人と結ばれた後はその二人の恋仲を邪魔しない程度に秘桜とは友達で居るのが最適だろう。
恋人の居る秘桜に対してなら俺は友達だと割り切れて、本当に俺と秘桜はただの友達として関わっていくことができるからな。
とはいえ、俺のせいで今秘桜が落ち込んでいる表情をしているのを見るのも辛いため、俺は秘桜に言う。
「俺のことを放課後に誘ってくれたってことは、秘桜は今日の放課後予定が空いてるんだろ?それなら、好きな人のことを遊びに誘ったりして、もっと仲良くなれば良い」
「……神咲くんに予定があるなら、それもできないよ」
秘桜は、小さな声で何かを言った。
「秘桜、今何か────」
秘桜の言葉を聞き取れなかった俺は、その内容を聞こうとしたが、秘桜は首を振って言った。
「ううん、予定があるなら今日は難しいよね……また明日」
「……あぁ、また明日」
俺たちは互いにそう言うと、それぞれ学校から出て家に帰った。
今日一日嘘の理由で秘桜からの誘いを断っただけでもこんなに胸が痛い。
だが、この痛みがあるということは、やはり今日秘桜からの誘いを断ったのは正解だったんだろう。
俺は自分にそう言い聞かせると、今日はいつもよりも少し早めに眠ることにした。
◇秘桜真琴side◇
「あ〜、神咲くんの気持ちがわからない〜!わからないよ〜!」
私は家に帰ると、自分の部屋でそう叫んでいた。
昨日私の家でお泊まりしてる時は順調に仲良くなっていってると思ってたのに、どうして今日になって神咲くんは私のことを避けるような対応を取るの!?
予定があるのは本当かもしれないけど、今日の神咲くんは、やっぱりどこかいつもの神咲くんとは違った。
もしかして私、自分で気づかない間に神咲くんに嫌われるようなことしちゃったのかな……そう思い至った私は、神咲くんに嫌われそうな行動を自分の記憶から遡り────
「あぁ……」
私は、すぐにそれが思い当たった。
それは、昨日の朝、神咲くんが寝ている間に、半分は無意識って言っても神咲くんの布団に潜り込んで体を密着させ、神咲くんの腕を抱きしめていたこと。
「あれで軽い女って思われちゃったのかな、確かに神咲くんそういうの嫌いそうだし……でも!私別に神咲くん以外にそんなことしないし、神咲くんに対してだって別に軽い女とかじゃない……よね?」
私は、夜遅くに神咲くんに迫られた時のことを少し想像した。
もし神咲くんが、昨日お泊まりの時にそういうことを私に迫って来てたら、私は……
「────こ、こういうところ!?軽いってこういうことなの!?」
口ではそう言いながらも、私は首を横に振って全力で否定する。
好きな人とそういうことをしたいって思うのは自然だし、これは軽いとかじゃないよ!神咲くんのことになると思考が暴走しちゃうのは私の悪い癖だよね……私は一度、落ち着いて考えることにした。
神咲くんは、私のことを異性として意識したって言ってた……でも、その後で苦しそうな顔をしてた。
「きっと、私が何かしたから嫌われたわけじゃない、嫌われたなら、私のことを異性として意識してるなんて言わないはずだし、神咲くんは私が神咲くんの寝ている時に神咲くんのことを抱きしめたってわかった後も、私のことを優しく心配してくれて、一緒に朝食も食べてくれた……だから、それが理由で嫌われてるんじゃないと思う」
そもそも、もし私が本当に神咲くんに嫌われたんだとしたら、私は絶対立ち直れないぐらい傷付いちゃうからそれは考えない。
……でも、だとしたら。
「どうして神咲くんは、突然私のことを避けるような……避ける?」
神咲くんは、私のことを避けたいのかな……?
「それも、何か違うような気がする……」
その後も色々と考えたけど、結局答えは出なかった。
かなり頭を使って疲れた私は、今日はいつもより早めに眠ることにして────次の日の朝の屋上。
昨日色々と考えて、神咲くんに相談したいことを思いついたから、私は今からそのことをそのまま神咲くんに相談することにした。
「神咲くん……今日の恋愛相談の内容なんだけど、好きな人に突然避けられてる時はどうしたら良いと思う?」
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