第22話 神咲架の実体験

「神咲くん!昨日ぶりだね」


 秘桜は、少し頬を赤く染めてそう言った。

 おそらく、俺の顔を見て、昨日俺のことを抱きしめながら眠っていたことを思い出したんだろう。


「あぁ、昨日ぶりだな」


 俺はあくまでも落ち着いて返事をした。

 ……改めて冷静に考えると、俺があの秘桜の家に泊まったというのはすごい話だ、今まででは到底信じられない。

 でも、実際にそれが起きた……ということはおそらく俺と秘桜の関係性は進展しているんだろう。

 ────本当にそれで良いんだろうか?

 秘桜が好きな人と付き合うことになった場合、どう考えたって俺の存在はその恋愛において邪魔になる。

 そうなったら俺と秘桜はもう金輪際関わることは無くなる……このまま俺たちの関係が進展し、仲が深まったとしてもその先にあるのは────


「昨日ぶりで悪いんだけど、今日も早速恋愛相談しても良いかな?」


 俺が考え事をしていると、秘桜が少しそわそわした様子で言った。


「……あぁ、いい、なんでも相談してくれ」


 そうだ、先のことなんて考えなくていい…/俺は秘桜が秘桜の好きな人と付き合うのを手助けするだけで良いんだ。

 俺は、さっき考えていたことを一度全て忘れることにして、昼休みになるといつも通り俺たちはそれぞれお弁当を手に二人で屋上へと向かった。

 そしてベンチに座ると、今回の秘桜からの相談内容が告げられる。


「今日相談したいことっていうのはね、好きな人とお泊まりした後で、今までよりも距離が縮まったら、そこからさらにどうやって距離を縮めれば良いのかなってことなの……!」

「お泊まりした後……?もうその好きな人とは泊まりを済ませたのか?」

「え……?えっと……か、神咲くん以外とはしてないよ」


 秘桜は、本当のことを言っているが何かを隠していそうな絶妙な口調で言った。

 だが、俺以外としていないという部分が本当なのであれば────


「それなら、泊まった後のことじゃなくて、どうやって泊まりに誘うかを考えた方が良いんじゃないか?」

「その……そ、そう!先の展望が分かってた方が、お泊まりにも誘いやすいかなって思ったの!」

「なるほど……そういうことなら、そうかもしれないな」


 しかし、泊まった後か……正直泊まった後もその相手が友好的に接して来るのであればその段階で告白しても良いと思うが、もしかしたら振られるかもしれないという不安はそんな論理で簡単に振り払えるようなものではないこともわかる。

 念には念をで、泊まった後にできそうなこと……


「泊まりを終えた後、もし相手が友好的な態度じゃなくて今までよりも疎遠な関係になったりしたなら、その時はまた俺に相談して、一緒にその原因を考えるとして……泊まりを終えた後、もし相手が今までと変わらず、下手をしたら今まで以上に友好的に接してきたとしたら、後は一緒に出掛けたり、家に呼んでみたりしてとにかく過ごす時間を増やせば良いと思う」

「過ごす時間を増やす……でも、泊まりを終えた後でもその私の好きな人が私のことをただの友達として見てたら?」


 秘桜に泊まりにまで誘われて、それを終えた後でも秘桜のことをただの友達として見るなんていう男が居るのかどうか不明だが、それに答えるとするなら。


「そうならないように、泊まりの段階で異性として意識させるしかない」

「どうやって異性として意識して貰えば良いの?」

「泊まりっていう状況なら色々とあると思うが、相手が信頼における相手なんだとしたら……」


 俺は、今から言おうとした言葉を一度喉の奥に飲み込んだ。

 論理的に考えれば秘桜にこのことを伝えることこそが俺の役目だが、それを俺の感情が否定している。


「……神咲くん?」


 突然言葉を詰まらせた俺のことを見て、秘桜が困惑しながら俺の名前を呼んできた……俺は、秘桜の男友達で、秘桜の恋愛相談を受けるという役割だ。

 自分の役割を再認識した俺は、感情では伝えたくなかったことを伝えた。


「もし相手が信頼における相手なんだとしたら、秘桜が泊まりの時に俺にしたことをそのまま、もしくはそれ以上のことをすればいい」


 秘桜が俺以外にそんなことをしている光景を想像したら少し気分が悪くなってきたが、俺はその感情を無視し、あくまでも秘桜の幸せだけを考えてそう伝えた。


「それでも異性として意識してくれないかもしれないよ?」

「秘桜に料理を教えてもらって、秘桜と楽しい時間を過ごして、秘桜と一緒に寝て……それでも秘桜のことを異性として意識しないなんて、少なくとも俺には考えられない」

「でも、神咲くんは実際に私のこと異性として意識してな────」

「これは……俺の実体験だ」

「……え?」


 しまった……感情が邪魔をして、余計なことを言ってしまった。

 俺はベンチから立ち上がると、秘桜に背中を向けて言った。


「変なことを言って悪かった……今日は、一人で食べる」

「待って!神咲く────」


 俺は秘桜の声を無視し、屋上のドアを開くと、一人で階段を下って行った。


「神咲くんが、私のことを異性として意識してる……?でも……だとしたら、だとしたらどうして────神咲くんは、そんなに苦しそうな顔してるの?」



 この作品の連載が始まってから三週間が経過しました!

 この三週間の間で、ここまでこの物語を読み進めてくださったあなたに、是非この物語への気持ちなどをいいねや⭐︎、コメントとして教えていただけるととても嬉しいです!

 作者はこの物語をとても楽しく描かせていただいているので、これを読んでくださっているあなたも引き続きお楽しみいただけると幸いです!

 今後もよろしくお願いします!

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