第9話 女友達はまだ裏に隠す
「お待たせ、神咲くん!」
元気な声でそう話しかけてきた秘桜は、出来上がった料理をテーブルの上に置いた。
……結局、秘桜が料理を終えるまでの間に緊張感を無くすということはできなかったが、今からはひとまず料理の方に集中すれば問題ないだろう。
「この料理は?」
「オムライスとサラダ!私のお料理を神咲くんに食べてもらうのは初めてだから、最初はとりあえず定番のにしようかなと思って」
「確かに定番だな」
────定番だが、俺はこの料理を見て、少し疑問に思ったことがあったため、そのことを聞いてみることにした。
「でも、定番という割には、オムライスにケチャップをかけてないのはどうしてだ?勝手に調味料をかけられたら嫌っていう話はいくつかあるが、もし気にしてるんだとしたらオムライスはそんなこと気にしなくても良いと思う」
ふと口にしたことだったが、秘桜は何故か少し動揺した様子で目を泳がせながら言った。
「う、ううん、その……卵の裏の部分にかけてあるから」
「……裏?」
「表でも裏でも味にそこまで変化ないから気にしなくて大丈夫だよ!」
確かに、表でも裏でもケチャップがあるのであれば味はそこまで変わらないだろう……でも、気になるのは当然そこではない。
「どうして表じゃなくて裏なんだ?」
ということだ。
俺が純粋に気になったことを聞くと、秘桜は頬を赤く染め少し緊張した様子で言った。
「今は……まだ裏じゃないと、裏に隠してないと、ダメなの────でも、いつか表にするから、してみせるから、楽しみにしてて!」
「……わかった、楽しみにしてる」
正直、秘桜が何を言っているのか俺にはほとんどわからなかったが、そんなことを言えるような雰囲気でもなさそうだったため、ひとまずは秘桜の言葉を受け入れることにした。
そして、立っていた秘桜は俺の対面にある椅子に座ると、俺にご飯を食べるよう促してきた。
「いただきます」
俺は、表面からではケチャップが見えないオムライスという秘桜が作ってくれた不思議なオムライスを口に含んだ。
「っ……!」
「か、神咲くん!もしお口に味が合わなかったら、何が合わないかを────」
そのオムライスは、秘桜が言っていたように表面では見えないだけで、しっかりと裏面にケチャップがかけられているようで、卵の厚さやケチャップの味、そしてちょうど良い具合に炒められた白ごはんや玉ねぎが口元の中で混ざり合って、とても美味しかった……ずっと食べていたいほど美味しいな。
「か、神咲くんが美味しそうな顔してる……!ずっと見てたいけどずっと見てたらまた前みたいに怒られちゃうかもしれないから、一応自分の分も食べながらにしないと……!いただきます!」
秘桜は何かをぶつぶつと言いながらオムライスを食べ始め、時々俺のことを見てきていたが、俺はそんなことが気にならないほどにこのオムライスを堪能していた。
────そして、二人でオムライスを食べ終えると、ごちそうさまを言って、俺は秘桜にオムライスの感想を伝えた。
「秘桜、オムライス本当に美味しかった、ありがとう」
「そ、そうかな?神咲くんにそう言ってもらえたなら、私も嬉しい……良かったら、また食べに来る?」
「良いのか?」
「うん!……その度に私の家に来てもらうことになるけど、それでもいい?」
「問題ない……むしろ秘桜の方がそれでもいいのか?」
「私が……?どういうこと?」
「好きな人が居る状態で、友達とは言っても仮にも異性の俺のことを家に上げても気にしないのかってことだ」
「あぁ、そのことね……」
そう言うと、秘桜は少し考え込んだような表情を見せた。
そして、何かを決意したのか席を立って俺の方に近づいてくると、俺の目を見て言った。
「……神咲くんは、私のことどう思ってるの?」
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