第10話 女友達は好みを教えて欲しい

 秘桜のことをどう思っているのかと聞かれた俺は、ほとんど間を入れずに言った。


「大事な友達だと思ってる」

「友達……それは、私のこと異性とは思ってないってこと?」

「そんなはずないだろ?」

「……え?」


 秘桜の問いかけに対してまたも即答した俺に対して、秘桜は何故か驚きの声を上げた。


「どうしてそんなに驚いてるんだ?秘桜が異性だってことぐらい、初めて見た時からわかってるに決まってる」


 俺がそう補足説明をすると、秘桜は見る見る驚きの顔から落ち着いた顔になっていき、落ち着いた声音で言った。


「神咲くんの言ってるその言葉の意味って、私のことを生物的には異性だってわかってるって話?」

「そうだが、それ以外に何かあるのか?」


 落ち着いた顔になっていた秘桜は、もはや落ち着きすぎて一瞬虚無を感じさせる表情となっていた。

 虚無というか、何かを悟っているような表情だ。


「秘桜?」

「何でもないよ……神咲くんにちょっと聞きたいことあるんだけど、聞いても良いかな?」

「何だ?」

「神咲くんの好きな女の子の好みを教えて欲しいの」


 俺の好きな……女子の好み、か。


「そんなの知ってどうするんだ?」

「身近な男の子の意見を知って、私の好きな人を惹きつけることの参考にしたいなと思って」

「そういうことか……でも、ぼんやりとイメージはあるけどそれを言葉にするのは難しいな」

「好みじゃなくても、好きな外見的な要素とかでも良いんだよ?」

「外見的に……か、どちらかと言えば派手な感じよりも落ち着いた感じの方が好みだな」

「そ、そうなんだ……!じゃあ、黒髪のロングは?」

「良いと思う」

「腰が引き締まってるのは?」

「良いと思う」

「そっか……!落ち着いた感じね、落ち着いた感じ────落ち着いた感じ!?」


 秘桜は何故か顔を下に向けて、とても驚きと焦りを抱いているような感じになっていた。


「秘桜……?」


 ただその感情のままに顔を下に向けていると考えていた俺だったが、よく見てみると秘桜の視線は自分の胸元へと当てられていた。

 何故そんな様子で自分の胸元を見ているのかと俺はとても不思議に感じたが、秘桜は顔を上げると、少し声を震わせながら不安そうに聞いてきた。


「ねぇ、神咲くん……落ち着いた感じが好きってことは、胸が大きいのは好きじゃない?」


 ……そういうことか。

 当然、常に見ているわけではないが、秘桜の胸部は大きすぎるというほどではないものの、制服の上からでもその胸の膨らみがわかるといったことからも、ほぼ間違いなく平均よりは大きいサイズだろう。

 そして、俺が落ち着いた感じが好きと言ったことを、胸にも当てはめて考えている……俺の一意見でそこまで動揺する必要はないと思うが、やはり身近な異性の意見というのはかなり重く受け止められてしまうものなんだろう。

 俺はその秘桜の不安を取り払うために、秘桜に伝える。


「嫌いじゃない、胸の大きさどうこうで何かを言うつもりはないが、一般的には大きい方が好きな人が多いらしいから、安心して良いと思う」


 俺の思っていることをそのまま伝えたし、これで秘桜も何かを不安に思う必要はない────と思ったが、秘桜は言った。


「一般の意見じゃなくて、私は神咲くんの意見を聞いてるんだよ?それに……神咲くんは優しいから、もしかしたら私が落ち込まないようにそう言ってくれてるんじゃない?」

「そんなこと────」

「じゃあ……ちょっとだけ、今から一緒に私の部屋に来て?」

「……え?」


 この流れで秘桜の部屋に行くというのは間違いなく何かが起きてしまうとは思うが、この流れで断ると俺が秘桜のために嘘をついたということになってしまい、それは今後の互いの信頼関係にも関わってくることだと思ったため、俺は秘桜に連れられて秘桜の部屋に入った。

 ……俺は、ここが秘桜の部屋だということもあってか、今までにない緊張感を抱いていた。

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