第34話 女友達は魅力的

 秘桜が魅力的かどうか?

 ……前ならその回答をはぐらかしていたかもしれないが、ここまで来たらもうそれをはぐらかさないといけない理由は無い。


「魅力的だ」

「っ……!」


 俺がそう答えると、秘桜は後ろから俺のことを抱きしめてきた────さっき俺が家に帰ろうとした時も秘桜に後ろから抱きしめられはしたが、今秘桜はタオルを一枚体に巻いているだけ……できるだけ意識しないようにしようとはするが、どうしても色々な感触を感じてしまう。


「神咲くんも、私にとって魅力的だよ!私にとって初めての男の子の友達で、色々初めてなことを神咲くんと一緒にして、今ではこうして一緒にお風呂に入ってて……神咲くんには、本当に感謝してもしきれないよ」


 秘桜がとても良いことを言ってくれているのに、意識の半分ぐらいは今秘桜に抱きしめられているこの体の感覚の方にいってしまっている。

 今までを振り返る話をするのであれば、今は少し離れてもらったほうが良いな。


「そうか……感謝してくれるのは嬉しいし、俺も秘桜には感謝してるから、そのことを伝えるためにも俺から離れてくれないか?」

「……え?」


 秘桜は一度困惑の声を漏らすと、次に声を沈ませて言った。


「私に、ほとんど服も着てないこの状態で抱きしめられるのは嫌だった?」


 ────俺はそれを聞いた瞬間、大きな誤解を生んでしまっていることに気がついたため、その誤解を解くために伝える。


「嫌とかじゃないんだ、ただ……どうしても、秘桜みたいに性格も良くて綺麗な異性から、今の状態で抱きしめられるとそっちの方に意識が向いてしまうっていうか……話に完全には集中できないし、何よりずっとこのままだったら俺の理性が持たない」

「……理性が持たなくなると、どうなっちゃうの?」


 理性が、持たなくなると……?

 そうだ、俺は理性が持たないといったが、そもそも理性ってなんだ?

 理性は、簡単に言えば欲求を抑えるものだ……なら、この状況における欲求ってなんだ?

 ……決まってる、秘桜に抱きしめられている今、俺も秘桜のことを抱きしめたいと思うことだ。

 だが、そんなことを異性の友達同士、ましてやこんなほとんど服を着ていない状態でなんてできるわけがない。

 だから、その欲求を抑えるための理性────違う、重要なのはそこじゃない。

 どうして俺が秘桜のことを抱きしめたいと思っているのか、だ。

 薄々感じていた、もしかしたら俺は、秘桜のことを────


「ダメだ秘桜、それには答えられない……もしそれに答えたら、俺たちの関係が変わってしまう」

「神咲くんにとって、私たちの関係って何?」

「さっき秘桜も言ってた通り、友達だ」

「神咲くんは、私にとって初めての男の子の友達……ううん、もっと言えば、唯一の男の子の友達だったよ……でもね、本当は────私が初めて神咲くんに恋愛相談をしたあの日から、私たちの関係は、もうただの友達じゃなくなってたの」

「……どういう、ことだ?」


 自分の感情や秘桜の言葉に思考の整理が付かない。

 そんな俺を見て、秘桜がある提案をしてきた。


「お風呂で話すようなことじゃないから、お風呂上がったらまた私の部屋で続き話そ?」

「……そうしよう」


 俺もそのほうがありがたいため、ひとまず話を後ですることにして、俺と秘桜はそれぞれ体を洗うと、一緒にお風呂に浸かった。

 高校生二人で家のお風呂に浸かるというのは想定されていないのか、俺と秘桜の肩や体はかなり密着していた。


「……やっぱり、二人で入ると狭いな」

「うん……でも、このぐらいがちょうどいいよ」

「……そうなのかもな」


 その後、二人で今日の遊園地のことを振り返りながら楽しく話してお風呂を楽しみ、お風呂から上がると、秘桜と一緒に秘桜の部屋に入った。

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