第35話 女友達は決心する

 秘桜の部屋に入ると、俺と秘桜はカーペットの上に隣になるように座った。

 すると、秘桜が口を開いて言う。


「じゃあ、えっと……続きの話、だよね」

「あぁ、そうだ……秘桜が俺に恋愛相談をした時から、もう俺たちの関係がただの友達じゃなくなってたって、どういう意味だ?」


 俺がそう聞くと、秘桜は真面目な表情で、過去を思い返すように言った。


「私、好きな人が居たの……居たっていうか、今もその人のことは好きなんだけど、その好きな人は友達だったから、その人が私のことを友達として見てるんだったら、私もその人のことを友達として見ようって、そう思ってた」

「……そうか」

「それで、それからしばらくの間は友達として接してたんだけど、やっぱり話してて楽しかったり、時々見せてくれる笑顔が好きだったりで、その人のことを諦めることができなかった……だから、いっそのこと私から色々とアプローチしようと思ったんだけど、どうやってアプローチすれば良いのかなんて私にはわからなかった」


 一度その人との恋愛は諦めようとしたが、それでもやっぱり諦め切ることができずにどうにかアプローチをしようとしたが、そのアプロートの仕方もわからない……秘桜は、俺が思ってたよりもずっと難しい状況に立っていたんだな。


「だから、私はある日本屋さんに行って恋愛本を探した……その結果、あの恋愛本を手にしたの」

「なるほど、それがあの時の『男友達のオトし方』って本か」

「タ、タイトル名は恥ずかしいから言わないで!あの本は、他の本とは違って役立ちそうなことがたくさん書いてたから買っただけで、私は別にオトすなんて思ってないんだから!」

「他の本とは違ってて、他の本も恋愛本なんだからある程度役立つことは書いてるはずだろ?」

「それは……そう、なのかもしれないけど、少なくとも私の好きな人には意味無さそうなものばっかりだったから」


 秘桜と泊まりまでしてるのに秘桜の気持ちに気付いていない時点でわかっていたことではあったが、恋愛本に書いてあることが意味無いって……秘桜の好きな人は一体どれだけ堅物なんだろうか……それにしても。


「普段俺は恋愛本を読まないからどんなことが書いてあるのかわからないんだが、例えばどんなことが書いてあるんだ?」

「あの本を買った後で神咲くんに会ったから、結局私もそのあとでほとんど恋愛本を読んでないし、あれ以前は恋愛本なんて興味も無かったからほとんど読んだことないんだけど……会話の節々で褒めるとか、胸元の開いた服を着て異性として意識してもらう、とかかな」

「……前者を意図的にするっていうのは少し気が引けるかもしれないな、後者はできるのであれば効果はあるかもしれないが、胸元を見られるっていうのは不快か」

「ううん、前者は意図的じゃなくて本当にその人のことをすごいと思ってるから私は無意識にしてるけど、それは友達としてって受け取られちゃってると思う……後者に関して言うと、私の好きな人はそういうのに興味無い人だから」

「興味無いなんてことはないと思う」

「……確かに、時々私が体を密着させたり、一緒にお風呂に入った時にほとんど服を着てない状態で抱きしめたりしたらちょっと反応してくれてたけど、普通男の子ってもっとそういうのに積極的でも良いはずなのに、少なくともその人は私に対して全然そんな雰囲気を見せてくれない……異性として意識してるとは言ってくれたけど、きっとそれは体を密着させたとか関係ないし、関係あったとしても、そこ止まり」


 異性として意識している、か……というか、それよりも問題は、秘桜に体を密着されたり一緒にお風呂に入ったりしておきながら、まだその人は秘桜の気持ちに気付いていないのか?恋愛相談を受けてる身としては、そろそろ気付いてもらわないと、俺の胸が痛────胸が、痛む?


「……」


 そうだ、話に集中して気付いていなかったが、さっきから胸が痛い。

 物理的にって話じゃない、心の問題だ。

 秘桜が、好きな人と距離を縮めている話を聞かされると……胸が痛い。

 どうして胸が痛いんだ?

 ────なんて、そんなことはもうわかっている。

 それは……俺が、秘桜のことを好きだからだ。

 だから、秘桜が俺でない他の人とそんなにも距離を縮めているというのを聞くと、胸が痛い。

 ……秘桜とその好きな人がどうなったとしても、俺は秘桜の傍に居るって約束したが────その約束は、守れないかもしれない。


「秘桜、一度今日は話を終わって────」


 俺が、一時的にでも胸の痛みを避けるために今日の話に区切りをつけようとすると、秘桜が力強く言った。


「だから────神咲くん、今から最後の恋愛相談をするね」

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