第36話 女友達の最後の恋愛相談
「……最後?」
「そう……これが、最後だよ」
恋愛相談がこれで最後ってことは、少なくとも今までより俺と秘桜が会える回数は減る……そもそもその好きな人と付き合ったら、必然的に俺と会える時間なんていうものはほとんどなくなるからそんなことはわかっていた。
それに、秘桜のその好きな人との話を聞かされるというのに苦しみを覚えていた俺にとっては、今後恋愛相談を受ける必要が無くなるというのは少し心が楽になるような気もする────が、今日で最後の恋愛相談になるとは思ってもみなかったため、俺はかなり動揺して言った。
「最後って……どうしてだ?もう、その好きな人とは結構良い感じってことか?」
「良い感じって言えるのかはわからないけど……もうこれ以上何かしても、関係が進むことは無いと思うから」
「そう、か……じゃあ、その秘桜の好きな人と秘桜が付き合ったとしたら、俺たちは少なくとも今みたいに泊まりなんてことはできなくなるんだな」
「……」
秘桜は、それに対して何も答えなかった……きっとそういうことなんだろう。
そう考えると寂しくもあるが、元々決まっていたことだ……一度引き受けた以上、最後までしっかり務めを果たそう。
「わかった、その最後の恋愛相談を聞かせてくれ」
「うん……最後の恋愛相談は────好きな人と偶然密接な関係になって、一緒にケーキを食べに行って、家に招いて料理を食べてもらって、抱きしめて、ご飯食べさせてあげて、一緒に買い出しして、膝枕して、膝枕してもらって、お泊まりして、怒って、泣いて、腕組んで、一緒に遊園地で楽しんで、一緒にお風呂に入って、今は私の部屋に二人きり……ここまでしたら、もう私の気持ち、我慢しなくても良いと思う?」
秘桜は、最後に少し涙目で声を震わせてそう聞いてきた。
そして、続けて言う。
「今まで、何度か私の気持ちを伝えれそうな場面はあったけど、もしそれで断られて今までの関係すら壊れちゃったらって思うと怖くて言えなかった……でも、もう私は、この気持ちを我慢しなくても良いと思う?」
そう、か……そうだったのか。
────さっきの秘桜の話。
聞き覚えがあるし、見覚えもある……何故なら、さっきの秘桜の話は、すべて俺が今まで秘桜としてきたことだからだ。
今は部屋に二人きりと言っていたことからも、きっとそれは間違いない……でも、だとしたら────俺は今まで、一体どれだけ秘桜に苦しい思いをさせてきたんだ?
今まで、俺は秘桜の好きな人の話を聞くときは、当然その好きな人が俺であるとは思っていなかったため、他人だと思って回答していた……だが、中にはきっとその発言の中で秘桜のことを傷つけてしまっていたものもあったはずだ。
そして現に、秘桜は今涙目で声を振るわせるほどに心を乱されている。
本当なら今すぐにでも俺の方から気持ちを伝えたいところだが、そんなことをしたら今までの秘桜の気持ちを全て蔑ろにしてしまうことになる。
だから俺は……まず、秘桜の気持ちを受け止める。
「……あぁ、もう我慢しないでいい」
「っ……!」
俺がそう言うと、秘桜は涙を流しながら俺のことを抱きしめて言った。
「神咲、くん……私、神咲くんのことが好きなの!本当に、本当に、大好きなの……神咲くん!!」
秘桜は涙を流していて、俺を抱きしめる腕にもとても力が込められている……それだけ、今まで我慢していたということだ。
────俺自身も気持ちを我慢するのをやめて、秘桜のことを抱きしめ返して言った。
「秘桜……今まで気付けなくて、本当に悪かった……俺も、本当は秘桜のことが好きだったんだ」
「っ……!本当……?本当に……?」
「本当だ」
「神咲、くん……!」
その後、秘桜は俺の体に頭を埋めて、しばらくの間泣き続けた。
俺は、いつかの屋上の時とは違い、泣いている秘桜のことを優しく抱きしめながら秘桜が泣き止むのを待った。
あの時は泣いている秘桜のことを抱きしめ返すのを堪えたが、今はもうその必要はない。
俺たちの関係は、今この瞬間から────確実に変わった。
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