第17話 女友達を膝枕する

 れ、冷静になれ、俺……!

 確かにされている行為は膝枕と呼べる行為に該当するかもしれないが、これはあくまでも秘桜が俺の体調を心配してくれてやってくれていること。

 キッチンやリビングには枕がないから、その代わりとして膝枕をしてくれているだけ────で納得できない!


「ひ、秘桜……?一応聞くが、今自分が何をしてるのか理解してるのか?」

「膝枕だよね?いつもは見上げてる神咲くんが、今は私の膝の上に居て、何だか新鮮」


 まず、間違いなく今は新鮮かどうかなんて気にしている時じゃないし、仮に新鮮じゃなかったとしたらそれはそれでおかしいだろう。

 そんなことを思いながらも、俺はそもそも体調不良ではないため、そのことを秘桜に伝える。


「秘桜、俺は本当に体調不良じゃない」

「じゃあ、どうしてさっき顔赤くしてたの?」

「……」


 これぞまさしく究極の選択だ。

 俺の顔が赤くなっていた理由を、正直に「秘桜の体が密着していて照れてしまった」と答えてとてつもなく恥ずかしい思いをする、だがその代わりに膝枕を脱する────か、顔が赤かった理由を隠し、このまま膝枕を続行することで俺は少し恥ずかしいと感じる行為を味わう。

 ……どちらを選んでも、俺にとって良い選択にはならなさそうだ。

 でも、よく考えてみたら女友達相手に体密着したから照れてしまったなんて言ったら、普通に気持ち悪いというか、どう考えてもドン引き案件だ……とはいえ、体調不良だと嘘をついて秘桜のことを心配させるのも気が引ける。

 悩みに悩んだ結果、俺が出した答えは────


「秘桜、膝枕をされるのは恥ずかしいから、もう少し別の形で休ませてくれないか?」


 というものだ。

 これなら、俺の顔が赤くなっていた理由を隠せるだけでなく、膝枕も脱することができる。

 我ながらよく咄嗟に思いついたものだ、と感心していると、秘桜が言った。


「神咲くん、私に膝枕されるの恥ずかしいって思ってるんだね」

「……え?」

「ううん、ごめんね変なこと言って……でも、私が膝枕して、恥ずかしいって思ってくれるんだって思って」


 ────予想外の切り口。

 少なくとも俺が恥ずかしい思いをすることはないだろうと思って言った言葉だったが……改めて復唱されると何だか恥ずかしくなってきた。

 俺はその恥ずかしさを覆い尽くすために言う。


「別に、そこまで恥ずかしいわけじゃない」

「そうなんだ?じゃあこのままでいいよね」


 そう言いながら、秘桜は軽く俺の髪の毛を撫でた。

 ……俺はこの時、自分が完全に失敗してしまったことを悟った。

 そして、秘桜が納得するまで膝枕されることを受け入れていると、秘桜が口を開いた。


「私、今まで男の子の友達なんて居たことなかったのに、今では神咲くんのことを膝枕してあげてるなんて、不思議だよね」

「……そうだな」


 膝枕されていることを口に出されるとやはり少し恥ずかしさがあるが、俺はどうにかそれを堪えて返事をした。


「……神咲くんに、もっと色んなことしてあげたい」

「今日から料理を教わり始めてるから、それで十分だ」

「ううん、そういうのじゃなくて……もっと────」


 秘桜は何かを言おうとして、顔を赤くした。

 ……さっきの俺も、秘桜に体を密着されていたことで顔を赤くしていたんだろうが、おそらく今の秘桜ほどは顔を赤くしていなかっただろう。


「秘桜?顔が赤いがどうかしたのか?」

「……うん、どうかしたの」

「え?」


 俺はその秘桜の発言に思わず体を起こすと、秘桜が言った。


「ねぇ、神咲くん……私も、神咲くんに膝枕して欲しいなって思うんだけど、いいかな?」


 一瞬困惑の声を漏らしそうになった俺だったが、俺の顔が赤くなった時は膝枕をしてもらったのに、秘桜の顔が赤くなった時には膝枕をしないというのは確かに不平等だと感じたため、その困惑の声を漏らすことなく言う。


「わかった……じゃあ、万全になったらやめるからいつでも言ってくれ」

「……私が万全って言うまではずっと膝枕してくれるの?」

「……あぁ」

「そ、そっか……嬉しいね」


 秘桜は微笑んでそう言うと、俺はソファにしっかりと座り直し、今度は秘桜が俺の膝の上に頭を置いて俺が秘桜のことを膝枕することになった。

 そして、俺の膝の上に居る秘桜のことを見て思う……秘桜は、前からこんなにも可愛かっただろうか。

 それは決して見た目がというわけじゃない、確かに見た目は私服姿でいつもとは違うが、それでも秘桜の見た目の絶対的な魅力というものは変わっていない。

 ……なら、どうして俺はそんなことを思ったんだろうか。

 秘桜のことを膝枕しながらそのことを考えてみたが、秘桜のことを見ているとその思考すらどうでも良くなってしまい、今はとにかくこの時間を二人で堪能することにした。

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