第18話 女友達は特別な時間が惜しい

 ────秘桜のことを膝枕し始めてから、かれこれ二十分が経過した。

 秘桜が万全になるまではいつまでもすると言ったが、まさか本当にこんなにも長い間することになるとは……なんて思いつつも、秘桜の魅力に惹かれていたらそんな時間すらも一瞬だったと感じている俺もいるため、そんな文句は口に出さないし出す理由もない。

 そんなことを考えていると、秘桜が口を開いた。


「そろそろお料理し始めないとだよね……」

「そうだな」


 秘桜は口でそう言いながらも、一向に起きる気配を見せない。


「起きないのか?」

「起きないといけないのはわかってるんだけど、この二人だけの特別な時間が無くなっちゃうのがなんだか惜しくて」

「特別……?今日は両親が居ないんだろ?だったら、起き上がったとしても二人だけの時間だ」

「そうなんだけど……今こうして神咲くんに膝枕してもらってるこの時間は、私にとってとても特別な時間なの」

「……確かに、同性の友達でも普通膝枕なんてしないのに、それが異性の友達にされてるって考えたら特別か」

「ううん、そうじゃなくて……神咲くんと、恋人みたいなことする時間」


 否定したことまでは聞こえたが、最後は秘桜が俺から顔を逸らしてとても小さな声で言ったため、何を言ったか聞こえなかった。

 そして、秘桜がなんと言ったのかを聞こうとした時、秘桜は慌てた様子で起き上がって言った。


「か、神咲くん!そろそろお料理しに行こっか!」

「え?そんなにいきなり────」

「い、いいから!」


 俺は、度々ある秘桜の謎の勢いに押されてしまい、秘桜と一緒にキッチンへと向かった。

 そして、玉ねぎ以外には特に切るのが難しい食材もなかったので、俺はしっかりとそれらを切ると、秘桜に教わった通りの手順を実行していき────カレーを完成させた。


「やったね神咲くん!」

「あぁ、秘桜のおかげだな」

「か、神咲くんが頑張ったからだよ……!」


 秘桜は嬉しそうにしてそう言った。

 ……秘桜に後ろから体を密着させられた時はもう詰んでしまったのかと思ったが、どうにかここまで来ることができた。

 俺と秘桜は一緒にリビングの椅子に座ると、早速俺が作ったカレーを食べ始めた……そして、秘桜が明るい声音で言う。


「美味しい……美味しいよ神咲くん!」

「確かに美味しいが、秘桜に言われたまましただけだから秘桜が作った時と同じ味なんじゃないか?」

「全然違うの!作り方が同じだったとしても、神咲くんが作ってくれたって事実だけで何倍も美味しくなるよ!」

「そ、そうか」

「うん!」


 秘桜は笑顔で言った。

 さっきも言ったが、秘桜に教えてもらったということもあって、このカレーは自分で食べてもかなり美味しいと思う。

 そのため、秘桜が言っていることがお世辞でないことは確かだろうが……そんなにも真っ直ぐ言われると少し照れるな。

 その後、俺と秘桜は二人で一緒にカレーを食べ終えると、カレーの感想を話し合っていた。


「本当に美味しかった~!まだお鍋にはカレーが残ってるから、私明日も神咲くんの作ってくれたカレー食べられるんだね~」

「そうなるな、いくらでも食べてくれ」

「でも、せっかくだから神咲くんとも一緒に食べたいよね……神咲くん、明日の予定は空いてる?」


 なるほど、明日もご飯を食べに来ないかということか。

 今日の夜は秘桜が俺に料理を振舞ってくれるということだったから、その誘いを受けたらこの土日はほとんど秘桜の家でご飯を食べることになるな……だが、特にそれでも問題なかったため、俺はその問いに頷いて答えた。


「あぁ、空いてる」

「そっか……じゃあ、明日は一緒に私の家で食べよ?」

「あぁ、そうしよう」


 ……どうしてだろうか。

 秘桜は落ち着いた様子でそう言っていたが、俺はその秘桜のことを見てどこか落ち着かない予感があった。


「……」


 そんな予感がありながらも、夜になるまでの間秘桜と一緒に映画を観たりトランプをしたりして過ごした。

 ちなみに、秘桜は映画の間何故か八割の時間は俺のことを見てきていたり、トランプでババ抜きをした時は俺がジョーカーを引こうとした時にとてもわかりやすく顔が引き攣ったりと、この夜になるまでの間で秘桜のことをよりわかったようなわからなくなったような気がしたが、また一層秘桜に対して興味が湧いてきたことだけは確かだった。

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