第19話 女友達は泊まって欲しい

 夜になって秘桜の作ってくれた料理を秘桜と一緒に食べ終えた俺と秘桜は、リビングのソファに二人で座り少しの間話していたが、夜ご飯も食べてそろそろ時間は19時になりそうだったので、秘桜に今日のお礼を言ってから帰ることにした。


「秘桜、今日は料理を教えてくれたり、他にもいろいろとありがとう」

「……帰るの?」

「あぁ、もう秘桜の料理も食べさせてもらったからな」


 そう言ってソファから立ち上が────ろうとした俺のことを、秘桜は俺の手首をつかんで止めた。


「待って、神咲くん」

「どうした?」

「……」


 秘桜は間を空けてから、少し言葉を詰まらせながら言う。


「神咲くん……明日は、私の家で一緒に今日神咲くんがお昼に作ったカレー、食べるんだよね?」

「そうだな」


 俺が頷いてそう答えると、秘桜は俺の目を見てどこか不安と期待を込めた目で言った。


「良かったら……今日、私の家にお泊りしていかない?」

「……え?……泊まり?」


 俺は、まさか秘桜にそんな提案をされるとは思っておらず、思わず驚愕してしまい一瞬だけ思考が停止しそうになったが、どうにか思考を停止させずに秘桜に言う。


「そんなことできるはずがない、秘桜には好きな人が居るんだろ?秘桜が俺のことを信頼してくれるのはうれしいが、少なくとも好きな人が居る状態で俺のことを家に泊めるのはあまり良くな────」


 俺が秘桜の提案を否定しようとした時、秘桜は両手で俺の右手を握って言った。


「私の好きな人がどうとか関係なく、私は神咲くんに私の家に泊まって欲しいって思ってるの!神咲くんが嫌だって言うなら仕方無いけど、神咲くんが私の家にお泊りすること自体は嫌じゃないって言ってくれるなら、私は神咲くんに私の家に泊まって欲しい!」


 ……どうしてだ?俺は秘桜にとってただの友達で、俺にとっても秘桜はただの友達のはず────なのにも関わらず、何故かただの友達ではない、別の何かで訴えかけてくるようなものを感じる。

 それに……事実として、俺は秘桜のことを膝枕していた時、完全に秘桜に惹かれてしまっていた。

 その時点でもう、俺と秘桜は────これ以上考えると長くなりそうだったため、今はとりあえず目の前に居る秘桜のことに意識を向けることにして、秘桜の言葉に対して返答する。


「……わかった、秘桜がそう言うなら泊まっていくことにする」

「ほんとに!?」

「あぁ……だが、少なくとも好きな人を除いて、俺以外にこんなことは絶対に言うな、秘桜の身が心配だ」

「神咲くん……うん、心配しないで、私は神咲くん以外にこんなこと言わないから」


 秘桜は、力強い声でそう言った……好きな人、というのが抜けていたが、それは言うまでもないことだから省略したんだろう。

 そして、一度話が落ち着いたところで、俺は秘桜に伝える。


「秘桜……手、離してくれるか?」

「……手?」


 秘桜は自分の両手が俺の右手を握っていることを視界の中心に入れると、慌てた様子で俺の手から自分の手を離して言った。


「ご、ごめんね!気づいたら握っちゃってて!!」

「嫌って意味で言ったわけじゃないから気にしなくていい」

「そうなんだ……良かった」


 秘桜は、俺には聞こえない声で何かを呟いたが、俺は気にせずに言う。


「じゃあ俺は一度着替えを取りに家に帰る」

「そ、そっか……ごめんね、いきなりこんなこと言っちゃって」

「謝らなくていい、俺が承諾したことだ、なんだったらお風呂は俺の家で入ってきた方がいいか?」

「ううん、湯冷めしちゃうから私の家でいいよ」

「そうか……ならお言葉に甘えさせてもらって、今から着替えを取りに行ってくる」

「うん、行ってらっしゃい!」


 秘桜に見送られながら、俺は一度自分の家に帰って着替えを持つと、そのまま秘桜の家に向かい、玄関に入ると秘桜が元気な声で言った。


「おかえり!神咲くん!」

「ただいま、だな」

「か、神咲くんがただいまって……!う、うん!おかえり、神咲くん!」

「さっきも言ってたから二度も言わなくていい」

「え?あ、そ、そうだよね」


 秘桜は少し顔を赤くしたが、顔を横に振って平静を取り戻した様子で言った。


「神咲くんがお着替え取りに行ってる間にお風呂沸かしたけど、先に入りたい?」

「どっちでもいい」

「……じゃあ、神咲くんが先に入って」

「わかった」


 ということで、俺はその後秘桜の家のお風呂に入らせてもらい、俺がお風呂から上がると今度は入れ替わりで秘桜がお風呂に入った。

 ────そして数十分後、髪の毛を濡らし、いつもよりも色気を漂わせている秘桜がリビングへとやって来た。

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