第20話 秘桜真琴は落ち着きたい

 秘桜のお風呂上がりの格好は、オシャレなロゴの入った長袖Tシャツに動きやすそうなズボンと、そろそろ冬に差し迫ってきているこの時期のお風呂上がりにピッタリな服装をしていた────が、制服姿の時やさっきの私服姿の時と比べて薄着になったことにより、秘桜のスタイルの良さが全て強調されているかのようになっていて、とても目のやり場に困る。

 俺がそんなことを思っていると、秘桜がソファに座っている俺の隣に腰掛けてきた。


「……不思議、神咲くんから私と同じ香りがする」

「同じシャンプーとボディソープを使わせてもらったからな……でも、本当に同じのを使っても良かったのか?俺は家から取ってきても良かっ────」

「良いの、神咲くんとお揃いの香りっていうのも嬉しいからね」

「嬉しい?」

「……うん、嬉しいよ」


 今の感情を表しているのか、もしくはお風呂上がりだからなのかはわからなかったが、秘桜は顔を赤くしながらそう言った。

 秘桜は俺とお揃いの香りと言うが、同じシャンプー、ボディソープを使っているはずなのに、秘桜からは俺よりも良い香り……というか、女子らしい香りというものが漂ってきて、さっきから少なくとも女友達に抱いてはいけないような雑念が俺の頭を過っている。


「神咲くん、今日はどこで寝たい?」

「寝る場所、か……できればこのリビングのソファを使わせてもらいたいが、最悪の場合床でも寝れる」

「神咲くんにそんなことさせられないよ……ねぇ、今日は一緒の部屋で寝ない?」

「……一緒の、部屋?」


 思考が固まりそうになった俺だったが、大抵秘桜がこんな突拍子もないことを言う時には意味があるということを今まで秘桜と過ごしてきた経験から俺は学んでいたため、それを確認することにした。


「どうして一緒の部屋で寝たいんだ?」


 俺がそう聞くと、秘桜は俺の手に自分の手を重ねて言った。


「今日は一日ずっと神咲くんと一緒だったから、最後も神咲くんと一緒が良いなって思ったの」

「……それだけなのか?」

「うん、それだけだよ」


 ……今の秘桜に手を重ねられるだけで秘桜が異性であることを意識してしまいそうなのに、同じ部屋で寝るなんてトドメも良いところだ。

 だが、秘桜はおそらく不純なことなんて全く考えていなくて、純粋に友達として今日一日を一緒に過ごしたから最後も一緒に過ごしたいと思ってくれているんだろう……その純粋な気持ちを、俺の雑念のせいで裏切るような真似はできない。

 俺は少し考えたが、決意を持って返事をした。


「わかった、そうしよう」

「本当に……!?い、一緒の部屋で寝てくれるの!?」

「あぁ……ただな秘桜、もう一度言うがこんなこと────」

「神咲くん以外に言ったらダメ、でしょ?そんなに心配してくれなくても、神咲くん以外にこんなこと言わないから大丈夫だよ」

「そうか」


 それから、秘桜は髪の毛を乾かすと、白色のパジャマを着て俺のことを秘桜の部屋に連れてきた。


「一緒の部屋って、秘桜の部屋で一緒に寝るってことか」

「うん!」


 まぁ、秘桜が寝る場所は秘桜の部屋だから、当然と言えば当然か。

 秘桜の部屋は下にカーペットが敷かれていて、勉強机に低いテーブル、ベッドに本棚とシンプルだが綺麗な部屋をしている。

 俺は、秘桜に借りた布団を下に敷いて、そこで眠ることとなった。

 秘桜はベッド、俺は布団で横になり、電気の切れた部屋で、俺と秘桜は会話する。


「神咲くん、今日は本当にありがとうね、とても楽しかったよ」

「俺の方こそだ」


 それからしばらく沈黙が生まれた。

 ……俺はふと、秘桜に伝えたいと思ったことがあったため、俺は眠たい頭でそのことを秘桜に伝える。


「秘桜」

「何?」

「今日の秘桜は、とっても魅力的に見えた」

「え……!?」

「だから、きっと秘桜の恋は成就する……俺が保証する」


 それだけ言うと、俺はすぐに眠りへと落ちた……秘桜の恋はきっと成就するだろうし、俺が秘桜の相談に乗ることで、絶対に成就させてみせる。

 秘桜の笑顔を……もっと見たい。



◇秘桜真琴side◇

 神咲くんから魅力的に見えたと言われてから三十分────ベッドで横になるだけ横になってるけど、心臓がバクバク言って全然寝れない!

 その言葉の意味を確かめようとしても、神咲くんすぐ寝ちゃったし……ていうか!神咲くんの意外と小さくて可愛い感じの寝息聞きながら、神咲くんと同じ部屋で寝るなんてよく考えたら私にそんなことできないよ!あ〜!今日ここまで頑張ったのに、明日起きたら寝不足な姿を神咲くんに見せないといけないなんて!!

 神咲くん、私が一緒の部屋で寝たいって言っても嫌な顔一つせずに一緒に寝てくれて、しかも私の心配まで……あぁ、神咲くん優しいなぁ、本当好き────こんなこと考えてたらドキドキして寝れないよ!

 あ〜!どうにかして気持ちを落ち着かせないと……

 私は、一番落ち着く場所を求めるようにほとんど無意識にベッドから降りると、神咲くんの眠っている布団に潜り込んで、神咲くんの腕を抱きしめた。


「ここ、落ち着く……」


 今日は、神咲くんと今まで以上に仲良くなったよね……あと少しで告白、できるかな……早く、したいな。

 そう思いながら、私も神咲くんと同様眠りへと落ちた────その夜、私は夢の中でも神咲くんと一緒に過ごした。

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