第15話 女友達と買い出し
休日に秘桜に料理を教わるという話は、秘桜の提案によって土曜日ということになった。
そして今がその土曜日の朝で、俺と秘桜は一緒に近くにあるスーパーへと歩いていた。
「こんなに普段から会って話してるのに、休日に会うのは初めてだな」
「うん、神咲くんは私服姿もかっこいいね」
「今日は秘桜の家で料理を教わるってだけだったから、結構シンプルな服装────あまりにも自然に言うから聞き流しそうになったが、今俺のことをかっこいいって言ったのか?」
「え?」
俺がそう聞くと、秘桜は一度困惑の声を漏らしてから少しの間沈黙した。
おそらくは自分が言った言葉を思い出しているんだろう。
────その次の瞬間、顔を赤くして言った。
「ち、違うの!そういう意味じゃないよ!?」
「そういう意味って、俺がかっこよくはないって意味か?」
「そういう意味じゃないよ!」
「じゃあ、俺のことをかっこいいって思ってくれてるのか?」
「そういう意味じゃないけどね!?」
「それならどういう意味なんだ?」
「そ、それは……」
秘桜は一瞬戸惑った様子だったが、何かを閃いたように言った。
「神咲くんも、私の私服姿を見るのは初めてだよね?私の私服姿、どうかな?」
なるほど、閃いたことというのは俺の方に話題を振るということか。
少し違和感のある流れではあるが、一度かっこいいと言われただけでその話を何度も何度もするというのは主観的に見ても客観的に見てもあまりしたいことではないため、ここは素直に秘桜の質問に答えよう。
秘桜の服装は、編み込まれたセーターに黒のズボンと、シンプルだがしっかりとオシャレをしているのがわかる服装だった。
「似合ってるんじゃないか?秘桜の高身長で細い体にもピッタリな服装だ」
「そ、そうかな?」
秘桜は少し照れている様子だったが、これは事実なため、俺は特に恥ずかしがることなく伝える。
「あぁ、似合ってる」
「あ、ありがと……!」
秘桜が嬉しそうにそう言った直後、俺たちはスーパーの前に到着したため、俺がカゴを持ってスーパーの中に入る。
そして、二人で食品棚にある野菜を見ていると、秘桜が話し始めた。
「神咲くん、今日は何食べたい?」
「秘桜に教えてもらいながら作るってことは、仮にも俺が作る料理になるってことだよな」
「お昼ご飯はね、でも夜ご飯は私が作るよ」
「夜ご飯……?今日は朝買い出しに行って、俺が秘桜に教えてもらいながら昼ご飯を作って終わりじゃないのか?」
「せっかくだから私のお料理も食べて欲しいなって思ってるの、でもお昼に二食は難しいと思うから、それなら夜に……って思ったんだけど、夜は忙しいかな?」
「忙しくはない、ただ……そうか、今日は一日中秘桜の家に居ることになるのか」
「そうなるね……両親も居ないから二人きり、だよ」
秘桜と二人きりで、秘桜の家に一日中か。
特に気まずい空気になったりはしないだろうが、それでも少しだけ緊張するな。
だが、今はとりあえず目の前に買い物を続行することにした。
そして、作る料理を決めてそのために必要は食材を手に取っていると、秘桜が何かを呟いた。
「私と神咲くんが付き合ったら、こんな感じで楽しく一緒に買い出しする日常が続くんだよね……」
その何かは聞こえなかったが、秘桜の目に宿っている何かがとても力強いことだけは確かだった。
俺と秘桜は食材を買い終えると、二人で一緒に秘桜の家へと向かった。
◇秘桜真琴side◇
神咲くんとスーパーでの買い出しを終えた私は、その帰り道考え事をしていた。
今日は……絶対に失敗できない。
神咲くんに私のお料理を食べてもらいたいから夜まで神咲くんに居てもらいたいっていうのは半分本当だけど、半分はそうじゃない。
もう半分は、どんな口実でも良いから神咲くんに夜まで家に居て欲しかった。
他にも、どうして私が土曜日と日曜日っていう二つある休日の中から土曜日を選んで神咲くんのことを家に招いたのか。
どうして私が両親が居ないことを強調したのか。
────全ては、今日神咲くんに私の家にお泊まりしてもらって、一気に距離を縮めるため。
さっき強く思った……今の私は、神咲くんのことをかっこいいと思ってることすらまともに伝えられない。
かっこいいってことだけじゃなくて、他にもたくさん伝えたいことはあるのに、それも伝えられない……今までの私、高校二年生になってからこの寒くなるまでの今までの間ただ友達としてしか振る舞えなかった私ののままじゃ、いつまで経っても神咲くんと付き合うことなんてできない。
だから────今日で神咲くんとお泊まりして、神咲くんと距離を縮めて、早く神咲くんに伝えたいことを全部伝えられる私になりたい。
「秘桜?どうかしたのか?」
私が考え事をしていたのに気づいてくれたみたいで、神咲くんが私のことを心配してくれた。
神咲くんに優しくされる度に、胸を打たれたみたいに嬉しくなる。
「ううん、なんでもないよ」
私はそんな神咲くんと付き合いたい……付き合いたい。
帰っている道中、私はそのことだけを考えながら神咲くんと一緒に家に帰った。
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