第28話 女友達は腕を組む
◇神咲架side◇
遊園地に入場すると、俺と秘桜はとりあえずアトラクションに乗ってみることにした。
今俺と秘桜が並んでいるアトラクションは、世界一周をテーマとしたアトラクションで、火山や氷山、砂漠から海まで、様々なところの環境を映像や温度調整などで再現し、短い間に世界を一周することができたような気分になれるということで人気なアトラクションだ。
「楽しみだね」
「あぁ……世界一周っていうのをコンセプトにしてることもあって、アトラクションとしては落ち着いた感じらしい」
「それ私もネットで調べて見たよ!絶叫系が苦手な人でも安心だって」
「ちゃんと調べてるんだな」
「当たり前だよ!今日すっごく楽しみにしてたんだから!」
そう言い放った後、秘桜は少し上目遣いで不安と期待を込めた表情で聞いてきた。
「……そういう情報知ってるってことは、神咲くんも今日のこと楽しみにしてくれてたってこと?」
それに対して、俺は思いのままを答える。
「あぁ、楽しみにしてた」
「っ……!そう、なんだ……!」
俺が思いのままを伝えると、秘桜はとても嬉しそうにしていた。
その後、数十分ほどアトラクションに並んだが、秘桜と話しているとその時間もあっという間で、俺と秘桜はその世界一周をテーマとしたアトラクションを堪能すると、遊園地内を歩きながら楽しく話していた。
「火山のところと氷山のところの温度差すごかったね!」
「そうだったな、映像も綺麗だった」
「うん!実際にそこに行ってるみたいだったよね!」
俺たちがさっきのアトラクションの感想を話し合っていると、ふと前の方から二人の男女のやり取りが見えた。
「外でそんなくっつくなって〜」
「腕組むぐらい良いじゃん!」
「しょうがないな〜」
そんな男女二人が、俺たちの横を通り過ぎて行った……こんな昼間から、カップルの人たちはイチャイチャしているというわけだ。
だが、俺は今秘桜と遊園地に遊びに来てるんだ、周りがどうしていようと知ったことではない。
「秘桜、アトラクションに並んだ時間とアトラクションの時間で、そろそろ昼だ……何か昼食でも────」
俺が周りのことを気にせず、至って真面目に昼食の提案をしようとした時、秘桜が俺の腕を組んできた。
……秘桜が俺の腕を、組んできた!?
「秘桜!?な、何してるんだ!?」
「え!?えっと……な、何してるんだろうね、私……」
秘桜は、自分自身の行動が理解できていないようだった。
だが、俺から腕を離そうとはせず、言葉を詰まらせながら話し始めた。
「さっきの人たちが腕組んでるの見て、咄嗟にこうしたいって思ったっていうか……遊園地だし、たまにはこういうこともしてみたいっていうか……あのさっきの人たちだけじゃなくて、他の人たちも腕組んだりしてて、どうして私と神咲くんは腕組んでないんだろうって疑問に思っちゃって、気づいたら……腕組んじゃってたみたい」
「組んじゃってたみたい、じゃない!俺たちは友達────」
「神咲くんが私と腕を組むのがどうしても受け付けないって言うんだったら組むのやめるよ!だから教えて、神咲くんは……私と腕を組んでるこの状況に対して、どう思ってるの?」
秘桜は、決意を込めた表情でそう聞いてきた。
秘桜と腕を組んでいるこの状況に対して、俺がどう思っているか?
……俺がどう思っているかの前に、大前提としてもっと大事なことがある。
「秘桜の恋が実ろうと実らなくても秘桜の傍に居ると約束したが、腕を組むっていうのはいくらなんでもその秘桜の好きな人に悪い……だから────」
「私が聞きたいのはそんなことじゃないよ……私は、神咲くんがどう思ってるのか、それを聞きたいの」
秘桜は、俺の腕を組む力を強めて言った。
秘桜の好きな人とかは関係なく、俺がどう思っているか……
それを考えた時、俺はとてもじゃないが好きな人が居る秘桜に対して抱いてはいけないような感情ばかりを抱いていることに気がついた……俺は────
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