第29話 女友達と遊園地

 俺がしばらくの間沈黙して俺の秘桜に対する感情と向き合っていると、秘桜が口を開いて言った。


「神咲くん、そろそろ……聞いても良いかな?」

「……俺が今、秘桜と腕を組んでるこの状況に対しての気持ち、だよな?」

「うん」


 ……あくまでも、俺の秘桜に対する感情ではなく、今現在秘桜と腕を組んでいるこの状況に対する俺の気持ち。

 ……この質問が、もう少し深い質問だったら危うかったが、とりあえず今はその質問に対して答えることにした。


「慣れないことに対しての恥ずかしさは感じるが、秘桜と腕を組むこと自体は嫌じゃない……違う、嫌じゃないとかじゃない……秘桜と腕を組むのはその……より距離が縮まったことを物理的にも精神的にも実感できて、こんなことができるほどに秘桜と仲良くなったんだって、嬉しく思う」

「神咲くん……!」


 秘桜は俺と腕を組む力をさらに強めると、嬉しそうな笑顔で俺の名前を呼んだ。

 ……秘桜が喜んでくれたなら、柄にも無いことを言ってみた甲斐はあったな。

 だが、一つだけ言いたいことがある。


「秘桜……秘桜と仲良くなったことを実感できるのは嬉しいと思うが、周りのカップルを見回しても、こんなに密着してるカップルはほとんどいない」


 冬服の分厚い服を着ていると言っても、今俺の腕は秘桜の胸元にしっかりとあたるほどには強く秘桜に腕を組まれている。

 そして、そんなにも強く腕を組まれているということは、必然的に体も全体的に密着しているというわけで、俺たちの距離感は秘桜が俺の寝ている間に俺の布団に入ってきたときを除けば、今までで一番近い距離感になっていた……だからこそ、もう少し俺と体を離して欲しいと伝えたかった、が。


「うん、それで?」


 ……普段の秘桜なら「カ、カップル!?そ、そうだよね、ちょっと密着しすぎちゃってたみたい!」なんて慌てて言いそうなものだが、今の秘桜には全くそんな気配が感じられない。

 むしろ秘桜は、俺と腕を組んでいることを嬉しそうにしながら、口元を緩め笑顔でそう返してきた。

 ……それでも俺は諦めずに伝える。


「だから、カップルでもない俺たちがこんなに密着して腕を組んでるのはおかし────」


 俺が説得の言葉を伝えようとした時、秘桜は俺と腕を組みながら足を進めて言った。


「それより、そろそろお昼の時間だしお昼ご飯食べに行こうよ、遊園地は料理も特徴的だから楽しめそうだよね〜」


 ……今の秘桜には、もはや何を言っても届かないだろうということを悟った俺は、秘桜と同じく足を進めて短くそれに返答する。


「……そうだな」


 そして、いつにも増して楽しそうな秘桜と一緒に昼食を食べに行くこととなり、早速今からご飯を食べようとした時。


「神咲くん!」

「どうした?」


 俺がそう聞き返すと、秘桜は何かを言いかけたところで「……帰ってから……パスタ……させてあげ……美味し……くん……じっくり……」かろうじて聞き取れたのはこれだけだったが、とにかくぶつぶつと何かを呟いていて、その後で「やっぱりなんでもないよ!一緒にお昼ご飯食べよ!」と言ってきたため、当然俺はそれに頷き、秘桜と一緒に昼食を食べた。

 そして、昼食を食べ終えた後────お化け屋敷。


「か、神咲くん!絶対私から離れたらダメだよ!……ていうか離れないで!!」

「そんなに強く腕を組まれてたら離れられるわけがない」


 未知の生物と戦うというテーマの絶叫系アトラクション。


「今回の乗り物はちゃんと揺れるみたいだから、注意しないとだね」

「そうだな」


 迷路型脱出アトラクション。


「神咲くん!私こっちだと思う!」

「それで五回連続行き止まりだったから、反対に行ってみるか」


 それらのアトラクションを楽しみ、そろそろ日も暮れそうになってきたので、俺と秘桜は最後に観覧車に乗ることにした。

 観覧車に乗ると、俺と秘桜は一時的に個室空間に二人きりとなり、俺たちの間には、さっきアトラクションを一緒に楽しんでいた時には感じなかった緊張感のようなものが走っていた。

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