第30話 女友達と観覧車

 観覧車が上昇してから少しの間、俺たちの観覧車のゴンドラの中は沈黙が支配していたが、秘桜がその空気をなんとかしようとしたのか少し慌てた様子で口を開いた。


「きょ、今日私と遊園地に来たの、楽しかった?」

「あぁ、一人で来てもそこまで楽しめなかったかもしれないが、秘桜と一緒にだったからかとても楽しめた」

「そ、そっか……神咲くんが楽しめたんだったら、私は良かったよ」


 そして、俺は少し今日の遊園地で印象的だったことを振り返ることにした。


「お化け屋敷じゃ、秘桜は今まで聞いたことないような叫び声を上げてたな」

「そ、それは言わない約束!」


 その後も色々と振り返ったあと、最後に行った迷路型脱出アトラクションを振り返る。


「……あとは、迷路で五回も連続で正解を外してて、六回目で秘桜の反対に行ったらそのあとは順調にゴールできたな」

「それも言わないで!はぁ、恥ずかしい……」


 秘桜は両手で顔を覆うようにして顔を隠した。

 まさか秘桜と二人で遊園地に来て、その遊園地のことで何気なく話して笑い合える日が来るなんて思いもしなかったが、今は実際にそんなことが起きている……そのことが、俺は心の底から嬉しかった。

 その後、またも一瞬ゴンドラ内を沈黙が支配したあと、ゴンドラが観覧車の頂点に達した時、秘桜が顔を両手で覆うのをやめて、頬を赤く染めながら言った。


「神咲くん……隣、座ってもいい?」

「……あぁ」


 少し前の俺なら「どうして隣に座るんだ?」なんてことを聞いてしまっていたかもしれないが、今はそんなことを聞かない。

 秘桜が俺の隣に座ってくれるというのであれば、俺が断る理由なんていうのはもう一つもないからだ。

 秘桜は、一度俺から少し間を空けた隣に座ったが、思い直したのか俺との距離を詰めてきて、肩と肩があたるほどのところまで移動してきた。

 そして、囁きかけるような声で言った。


「私、神咲くん以外の男の子と、こんなに体を近づけたことないよ……体だけじゃなくて、一緒にお出かけしたり、家に呼んだり、抱きしめたりご飯食べさせてあげたり、買い出しに行ったり膝枕してあげたりしてくれたり、お泊りだったり、泣いたり怒ったり、楽しかったり喜んだりも、全部神崎くんが初めてで……全部、神咲くんが私にくれた大切なもの」

「……そう聞くと、俺たちは本当に色々なことをしたんだな」

「うん……でもね、まだまだ私は、神咲くんと色々なことをしたい」

「俺と……か、秘桜の好きな人────」


 俺がそう口にしようとした時、秘桜は俺の腕を組んできた。

 今日一日はずっと秘桜と腕を組んでいたが、この二人きりの個室空間で腕を組まれると、またさっきまでとは違った緊張感────じゃない。

 そうだ……これは緊張感じゃなくて────ドキドキ、してるんだ。

 このドキドキを緊張感と思っていたさっきまでは気づかなかったが、気付けば俺の心臓の鼓動はとても早まっている。

 俺が初めての感覚に戸惑っていると、秘桜が言った。


「神咲くん、その続きは言わないで」

「……言わないで?」


 俺はどうにか自分の心臓の鼓動から秘桜の方に意識を戻してそう聞き返した。

 言わないでって……どういうことだ?秘桜にとっては秘桜の好きな人が最重要なはずで、俺に恋愛相談をしてきたのだってその人と付き合いたいからということだったはずだ。

 だが、秘桜はもう一度言う。


「うん、言葉通りだよ……その続きは言わないで」


 その言葉の意味が理解できない俺は、そのことについて説明を求めようと口を開く。


「……どうしてだ?秘桜の好きな人のことを────」


 が、秘桜はそれを遮るようにして言った。


「神咲くんは、その続きを言う必要が無いから」


 その続きを言う必要が……無い?


「意味がわからな────」


 秘桜は自分の言いたいことが伝わっていないことに痺れを切らしたのか、大きな声をゴンドラ内に響き渡らせた。


「私は神咲くんとだったらキスもできるから、神咲くんはその続きを言う必要が無いって言ってるの!!」



 昨日から美人でタイプ過ぎる義妹が「結婚したい」と毎日迫ってきていてとても困っている〜義妹が妹であることを利用して、好き放題誘惑してくるんだが!?〜────という作品を連載させていただくことにしました!

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