第44話 恋人とクリスマスイブ

 ────今日はクリスマスイブ。

 真琴が初めて俺の家に来る日と真琴が初めて俺の家に泊まる日だ。

 そのため、俺は朝から真琴の家に真琴のことを迎えに行き、泊まりの荷物を持った真琴と一緒に今俺の家に向かっていた。


「架くんが初めて私の家に来た時も緊張したけど、初めて架くんの家に行くってなると、なんだか別の緊張感を感じちゃうね」

「そうだな……俺もいつもとは違う緊張を感じてる」


 真琴の家で二人きりになるというのは、今までにもう何度も経験していることだが、俺の家で真琴と二人きりになったことはないし、そもそも真琴のことを俺の家に上げること自体が初めて……互いに二人きりの空間に居ることには結構慣れて来ているが、やはり場所が変わる、それも俺の家となるとまた感じ方が違うものだ。

 ここまで、最近の俺たちにとっては無縁だったと言える緊張感を漂わせていたが、真琴が俺の手を恋人繋ぎで繋いで言った。


「でも……緊張もあるけど、それ以上に架くんの家に行けることは本当に嬉しいし、このクリスマスイブに架くんと二人きりで過ごせるのも、私は本当に嬉しい」

「あぁ……俺も同じ気持ちだ」


 そう言いながら、俺は真琴と手を繋ぐ力を少しだけ強める。

 その後、互いに少しの間何も話さなかったが、真琴が俺から視線を逸らしながら、頬を赤く染めてどこか照れたような様子で言った。


「か、架くん……今日は、その……夜、どうしよっか?」


 夜、どうするのか……真琴のことを女友達だと思わないといけないと勝手に思い込んでいた時の俺がその言葉を聞けば「夜って、夜ご飯のことか?」なんて間の抜けたことを言ってしまっていたかもしれないが、今の俺はそうではない。

 真琴の伝えたいことが、しっかりとわかる。


「……夜は、一緒のベッドで寝よう」

「っ……!うん……!」


 遠回しな言い方になったが、真琴にはしっかりとその意図が伝わったようで、大きく頷いてそう言った。

 ……真琴が今恥ずかしそうに頬を赤く染めているのと動揺、おそらく俺も今恥ずかしいという感情が少し表に出てしまっているのかもしれないが、そのことをできるだけ気にしないようにして真琴と一緒に俺の家へ向かった。

 俺の家に着く頃には一度その感情が落ち着いていて、今は俺の家に初めて真琴のことを家に上げるという緊張感が込み上げて来ていた。


「……じゃあ、上がってくれ」

「うん、お邪魔します!」


 真琴のことを俺の家の玄関に上げると、真琴は少し嬉しそうに言った。


「架くんの家って感じの、落ち着いた感じの家だね……もっと緊張するかなって思ったけど、いつも架くんが過ごしてる家だって思うと、緊張よりもその光景を見れて嬉しいって気持ちが勝っちゃった」

「確かに、真琴のことを家に上げる直前までは俺も少し緊張感があったが、いざ家に上げてみると緊張よりも真琴が俺の家に居てくれることの安心感っていうか、一緒にこの空間を共有できることが嬉しいって感じる」


 そう言った後、俺たちは二人で小さく笑うと、緊張なんて忘れて二人で一緒にリビングに入った。


「真琴はリビングの椅子に座って待っててくれ、俺が朝食を作ってくる」


 そう言ってキッチンに行こうとした俺のことを、真琴は後ろから俺のことを抱きしめて止めて言う。


「待って!私もお料理する!今日は二人で一緒にお料理しよ?」

「そうか?今日は真琴が客だから、とも思ったが……真琴がそうしたいって言うなら、そうしよう」

「やった……!」


 後ろから真琴の喜んでいる声が聞こえてくる……が、一つ気になったことがある。


「それを言うだけならわざわざ俺を抱きしめる必要は無かったと思うが、どうして俺のことを抱きしめてるんだ?」

「それは、私が常に架くんのことを抱きしめたいって思ってるからだよ」


 そう言いながら、真琴は俺のことを抱きしめる力をさらに強めた。


「……それは俺も同じだから、五分だけ抱きしめ合ってから料理をしよう」

「足りないから十分でもいい?」

「十分でも二十分でも、何時間でもいい」


 ────その後、俺と真琴は思う存分抱きしめ合ってから二人で一緒に料理を作り始めた。

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