第13話 女友達はあ〜んする

 翌日、昼休みになると、秘桜がいつにも増して元気な様子で話しかけてきた。


「神咲くん!良かったら、今日も私と一緒にお昼ご飯食べない?」

「わかった、何か相談事でもあるのか?」

「ううん、今日は神咲くんと一緒にお昼ご飯が食べたかっただけ」


 相談事もないのに、俺と一緒にお昼ご飯を食べたい……?

 その時間があるなら、好きな人と一緒にご飯を食べた方が良いんじゃないかと思った俺だったが、せっかく秘桜が誘ってくれているのにそんなことは言えないし、昨日でより関係性が深まった秘桜と一緒に昼食を食べるのは嫌なことではなく、むしろ嬉しいことだったため、俺はそれを受け入れることにして、お弁当を持つと屋上へ向かった。

 そして、もはやいつものベンチとも言えるほどにいつも座っているベンチと化したベンチに二人で座り、互いにお弁当の蓋を開くと秘桜が聞いてきた。


「神咲くんのお弁当は、いつも神咲くんが自分で作ってるの?」

「あぁ、朝は特にやることもないから、料理ぐらいは自分でやってるんだ」

「すごいね」

「そうか?」

「うん」

「でも、昨日作ってもらった秘桜のオムライスに比べたら、俺の料理の腕は全然だから、俺ももっと料理の腕を上げないとな」

「お料理の腕……」


 秘桜は、俺の言葉に対して少し考える素振りをとると、何かを閃いたように身を乗り出して言った。


「神咲くん!私、自分でお料理が上手なんて言うつもりはないけど、それでも神咲くんが私のお料理を美味しいって思ってくれてるんだったら、私が神咲くんにお料理の作り方教えてあげよっか?」

「え?良いのか?」

「うん!教えてあげたい!」

「そこまで言ってくれるなら、教わることにしよう」


 俺と秘桜は、話の成り行きで料理の作り方を教え、教わる関係にもなった。

 最近は秘桜との関係の進展がすごいなと思いながらも、俺はご飯を食べ始めた。

 二人でご飯を食べ始めてから数分が経った頃、秘桜は俺の口元に卵焼きを差し出した。


「神咲くん……あ、あ〜ん」

「……え?」


 ……あ〜ん?

 あぁ、恋人同士がよくやるあれのことか……だが。


「どうして俺にそんなことをするんだ?」

「えっと……日頃のお礼!普段恋愛相談に乗ってもらったり、そうじゃなくても学校で一緒に居てくれたりするから!」

「別にお礼なんてしなくて良い、俺たちは友達────ん!?」


 俺が、友達だからそんなことはしなくても良いと言おうとした時、秘桜がその言葉を遮るように俺の口の中に卵焼きを入れた。

 その卵焼きを食べ終えた俺は、秘桜に何か言おうと思ったが、その秘桜は拗ねた様子で頬を膨らませていた。


「……どうして秘桜が拗ねてるんだ?」

「拗ねてなんかないよ?」

「どう見たって拗ねてるようにしか見えない」

「そんなことないよ」


 発言こそ落ち着いた様子の秘桜だが、相変わらず頬は膨らませていた……だが、俺は一つだけ伝えたいことがあったため、そのことを秘桜に伝える。


「秘桜の作る卵焼きも、昨日のオムライスとはまた違って味付けがされてて美味しかった」

「っ……!」


 俺がそう伝えると、秘桜は頬を膨らませるのをやめて、嬉しそうな顔で言った。


「神咲くんが気に入ってくれたなら、これからも私が作ってあげるね」

「あぁ、ありがとう」


 俺が感謝を伝えると、秘桜は顔を横に逸らして俺には聞き取れないほど小さな声で呟いた。


「本当……ずるいよ」


 秘桜が何を言ったのかは聞き取れなかったが、その表情はどこか嬉しそうだった……そして、そのまま続ける」


「そうだ神咲くん、今日からは卵焼きでもどれでも良いけど、一つは私のお料理を食べて欲しいの」

「どうしてだ?」

「私がお料理を教える時に、私のお料理の味を知っておいてもらった方が便利だと思うから」

「そうか……そういうことなら、毎日食べさせてもらおう」

「うん……食べ方は、あ〜んでも良いよね?」

「そこだけは変えてくれ」

「ダメ」

「理由は?」

「ダメだから!」

「だからその理由────」

「ダメなものはダメだから!」

「わ、わかった、それでいい」


 俺は秘桜の勢いに負けてしまい、大人しく秘桜からのあ〜ん、を受け入れることにした。


「……」


 秘桜からのあ〜んを受け入れるということは、これから毎日秘桜の料理をあ〜ん、で食べることが決定したのか。

 ……そのこと考えると少しゾッとしたが、俺はできるだけそのことを考えないようにしながら秘桜と一緒に昼食を食べた。

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