第38話 恋人は頬にキスする

 朝になると、俺と真琴はほとんど同時に目を覚まして、上体を起こすと互いの顔を見て朝の挨拶をした。


「おはよう、真琴」

「お、おはよう、架くん……」


 真琴は、頬を赤く染めて少し照れている様子だった。


「どうかしたのか?」

「う、ううん、前は私が無意識の間に架くんの寝てた布団に潜り込んじゃってたけど、今回はちゃんと一緒に私のベッドで寝れて、不思議な感じっていうか……架くんとこうして一緒に寝られて、嬉しいの」

「なるほどな……それを言うなら、俺も真琴と同じだ」


 俺がそう言うと、真琴は嬉しそうに口元を緩めて俺のことを抱きしめた。


「朝から架くんのこと抱きしめられるなんて、夢みたい……」

「夢じゃない、これからはいくらでも抱きしめてくれていい」

「うん……!」


 その後、互いにベッドの上で抱きしめ合い、しばらくすると俺たちは互いから腕を離した。


「真琴とこんなに幸せな時間を過ごせるなんて思いもしなかったな……昨日までは真琴に俺以外の誰か好きな人が居ると思ってて、真琴がその人と関係を深めていくのを傍で見ていくしかないんだと思ってたから」

「もう、気づくのが遅いよ、私はずっと架くんだけを好きだったんだよ?あんなにアプローチしたのに、結局私が直接言うまで気づいてくれないんだから」

「悪かった……でも、まさか恋愛相談をしてきた相手が自分のことを好きだったなんて思わないだろ?」

「それは、そうかもしれないけど……」


 真琴が、少しムッとしたような表情で俺に近づいて来たため、俺は思わず顔を後ろに下げ、そのまま背中ごとベッドにくっつけてしまった。


「ま、真琴?」


 それでも真琴は俺に近づいて来て、俺のことを挟むように両足を置くと、俺に覆い被さって言った。


「私、架くんのこと好きなの」

「あぁ、ちゃんとわかって────」

「言葉とちょっと抱きしめあっただけだと、架くんにはまだ私が架くんのことを好きってことがちゃんと伝わってないかもしれないから、ちゃんと伝えてあげないとだね」

「そこまでされて伝わってないわけ────」


 俺が反論しようとした時、真琴はそれを遮るようにして俺に顔を近づけると────一瞬ではあったが、俺の左頬にキスをした。

 その瞬間、俺は思わず左頬を押さえて言う。


「ま、真琴!?」

「か、架くんは私があんなにアプローチしても私の気持ちに気づかないぐらいだから、このぐらいしてあげた方が良いかなって思っただけだよ!私が架くんのほっぺたにキスしたかったとか、そういうわけじゃ────ううん、そうじゃない」


 真琴は、今度は俺の右頬にキスすると、俺の手に両手を添えて言った。


「私は、架くんとキスだけじゃなくて、もっと色々なことをしたい……架くんとなら、どんなことだってしたい」

「真琴……」


 この体勢で真琴からそんなことを言われると、どうしても変なことを想像してしまいそうになる俺だったが、いくらなんでもそういったことは早すぎるため、俺は首を横に振ってその考えを一度置いた……とはいえ、この雰囲気で何もしないというのはおかしな話だし、俺も真琴が俺にしてくれたように真琴のことを好きだと伝えたい。

 俺は、俺に覆い被さって来ている真琴の左頬にキスをした。


「っ……!」

「お返しだ」


 真琴も、さっきの俺と同様に自分の左頬を押さえ、嬉しそうに言う。


「架くんに、キスされちゃった……で、でも架くん、私は両頬にキスしたけど、架くんはまだ左だけ────」


 俺は、真琴がそれを言い終える前に、望み通りに右頬にもキスをした。

 すると、真琴は我慢できないといった様子で俺のことを強く抱きしめて言った。


「ちょ、ちょっと架くんのことが大好きだからしばらくこうしてたいけど、良いよね?」

「あ────」

「ダメって言っても離してなんてあげないけどね!今まで友達だった時にできなかった分、これからはいっぱいこうするんだから!」


 そう言った後、真琴は嬉しそうな声を漏らした。


「……ダメなんて言うわけないだろ?さっきも言ったが、いくらでも抱きしめてくれ」


 そう言うと、俺も真琴のことを抱きしめ、俺たちはまたも互いに抱きしめ合った。

 どうやら真琴は────そして俺は、思っている以上にお互いのことを好きらしい。

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