第39話 恋人は表にする

 互いに抱きしめ合っていると、そろそろ朝食を食べる時間になってきたため、俺たちは名残惜しかったが互いに抱きしめ合うのをやめて、一緒にリビングへと向かった。


「架くん、今日の朝食は楽しみにしててね」

「真琴の料理は全部楽しみにしてる」

「もう、架くんったら……でも、今日のお料理は本当に一味違うよ?」

「何か隠し味でもあるのか?」

「それはできてからのお楽しみ!架くんはリビングで待っててね!」


 真琴はやけに楽しそうにそう言うと、軽い足取りでキッチンへ向かった。

 俺は楽しそうな真琴を見るだけでもう朝食を取らなくても良いほど満たされた気分になったが、真琴が作ってくれたご飯はしっかりと食べたいため、俺はリビングで真琴が朝食を作り終えるのを待つことにした。

 そして、俺は待っている間に考える────真琴が、女友達だった時の何倍も魅力的に見える。

 当然、恋人になったからと言って一晩で容姿が劇的に変わるわけじゃないし、真琴の容姿は元々極限まで良かったため、俺が真琴のことを女友達だった時の何倍も魅力的に見えているのは、きっと容姿による影響ではない。

 おそらくそれは、これが本当の真琴の魅力だからだ。

 今まで真琴は、俺と友達として接していたから、この魅力を抑えるしかなかった……今にして思えば、どうして俺は今まで真琴の気持ちに気づかなかったんだと思うばかりだが、とにかく真琴は今まで俺と友達として接していたから、その魅力を最大限に出せなかった。

 少し長くなってしまったが、何が言いたいのかと言えば────真琴が最高に可愛いということで、そんな可愛い真琴と恋人の俺はとても幸せだということだ。

 一人でそんなことを考えていると、あっという間に数十分が過ぎ、良い香りが漂ってきたと思えば、真琴が料理を乗せたお皿を手に持ち、明るい声を出しながらリビングまでやって来た。


「架くん!できたよ!」

「あぁ、ありがとう」


 そして、俺の前に出された料理は────オムライスだった。

 俺が初めて食べた真琴の料理……そして、そのオムライスを見て、真琴が今日の料理は一味違うと言った意味がわかった。

 真琴が俺の隣に座ると、俺はそのオムライスを見ながら言う。


「……ハート、か」

「うん!」


 前に真琴のオムライスを食べた時は、表にはケチャップがかかっていなくて、裏にケチャップがかけられていた。

 その理由があの時の俺にはわからなかったが……


「俺が初めて真琴のオムライスを食べた時も、裏にはハートを書いてたのか?」

「そうだよ……あの時の約束通り、ちゃんと表にできたね」


 そうか……当然だが、もうあの時から────じゃないな、もっと前から、真琴は俺のことを好きだと思ってくれていたんだ。

 ……俺は隣に座っている真琴のことを抱きしめる。


「か、架くん!?」

「今までの真琴の気持ちを考えたら、こうしたくなった」

「は、早く食べないとオムライス冷めちゃうよ」

「ちょっとだけだ」

「……ちょっとだけ、だよ?」


 そう言いながらも、真琴はどこか嬉しそうに俺のことを抱きしめてきた。

 その後数分の間そうしていると、真琴が甘い声で言った。


「……オムライス、冷めちゃうかな」

「そうだな、そろそろ食べるか?」

「ううん、こうしてると温かいから、もう少しだけ……」


 そう言って、真琴は少し俺のことを抱きしめる力を強めた。

 そして、合計十分ほどそうしてからオムライスと向き合うと、俺たちは互いにオムライスを食べ始めた。


「ちょっとだけ冷めちゃってるね」

「そうだな……でも、美味しい」

「そうだね」


 真琴はスプーンの上にオムライスを乗せると、それを俺の口元に差し出してきて言った。


「あ〜ん」


 俺は、その差し出されたオムライスを食べる。


「美味しい?」

「あぁ、美味しい」

「私にも食べさせて」

「わかった」


 真琴がしてくれたように、俺も真琴の口元にオムライスを差し出した。


「美味しいか?」

「うん……オムライスがちょっと冷めちゃってても、架くんに食べさせてもらえるだけで、こんなにも温かみのある味になるんだね」

「……そうだな、俺も真琴に食べさせてもらえるだけで、冷めてるものでも温かみを感じる」


 その後、俺と真琴は、少し冷めてしまったオムライスを、とても温かい気持ちで食べた。

 俺たちはきっと────二人一緒なら、どんな時でも幸せに過ごしていくことができるだろう。

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