第5話 女友達の笑顔に見惚れてしまった
「神咲くん、今日はありがとう!すごく楽しかったよ」
「俺も楽しかった、ありがとう」
店内から出て帰り道を歩いている俺と秘桜は、互いに今日のお礼を言い合った。
「男の子とお出かけするの初めてだったから最初は緊張してたけど、美味しそうにケーキ食べてる神咲くん見てたら緊張しなくなって良かったよ」
「最後の一文に関しては色々と言いたいことがあるが、初めて男子と出かける相手が俺で良かったのか?」
「うん、神咲くんが良かったよ」
そう言って秘桜が頬を赤く染めたように見えたが、今は放課後でちょうど夕焼けが出ている時間帯。
そのため、秘桜の頬が赤く染まっているのか、それともただ夕焼けの色がそこに映し出されているだけなのか俺には見分けることができなかった。
そして、ぼんやりと夕焼けを眺めていると、前からおそらくはカップルと思われる二人組の男女が手を繋ぎながら歩いてきて、俺と秘桜の横を通り過ぎて言った。
「俺たちが歩いてきた方角に向かったってことは、もしかしたらあの人たちも俺たちが行ったケーキ店に行ったりするのかもな」
「そう……かもしれないね────神咲くん、あの人たちはどうやって恋人になったのかな?」
「どうやって……人によっては違うと思うけど、大体恋人になる人たちっていうのは長い時間を一緒に過ごしたりしてそうなったんじゃないか?」
「……みんな最初は友達から始まってるんだよね?」
「そうだと思うけど────あぁ、そういうことか」
秘桜はおそらく、自分の恋が実るかどうかを不安に思ってるんだ。
なら、恋愛相談をされている俺が言えることはただ一つしかない。
「秘桜の恋心は絶対に実る……恋愛未経験の俺だと頼りないかもしれないが、秘桜が俺に恋愛相談して来てくれる限り、俺は絶対にそれと真剣に向き合う、だから今はそんなこと心配せずに、ただその秘桜の好きな人に思いをぶつけることだけを考えよう」
「っ……!……うん、じゃあこれからもたくさん相談するから、私が好きな人と恋人になるのを手伝ってね」
「あぁ、約束する」
俺がそう答えると、秘桜はとてもいい笑顔を見せてくれた。
その笑顔は夕焼けに照らし出されていて、とても綺麗に見えた。
「……神咲くん、もしかして私の顔に何か付いてる?」
「え?」
秘桜が突然そんなことを言ったため、俺は思わず困惑の声を漏らした。
顔に何か……?
俺は秘桜の顔を改めて見てみるも、特に何もついていないため、そのことを伝えた。
「何もついてない」
「そう?なら良かった」
「……どうして突然そんなことを聞いてきたんだ?」
「神咲くんが私の顔を十秒ぐらいずっと見てたから」
俺が秘桜の顔を十秒も見ていた……?
────そうか。
俺は、思わずあの笑顔の綺麗さに見惚れてしまっていたんだ。
「神咲くん?」
少し沈黙していた俺のことを不思議に思ったのか、秘桜が俺の名前を呼んだ。
「なんでもない、行こう」
「うん」
そう返事をした後、俺と秘桜は一緒に駅まで来た。
だが、どうやら俺と秘桜の帰り道は違うらしい。
「今日はここでお別れ、だね」
「あぁ、帰りは気をつけてな」
「待って!」
改札を通ろうとした俺だったが、秘桜にそう呼びかけられたため、俺は足を止めた。
そして、秘桜と向き直ると、秘桜は頬を赤く染めながら、少し緊張した様子で言った。
「良かったら今度、私の作ったお料理食べて欲しいから私の家に来てくれないかな?」
秘桜の作った料理か……とても美味しそうだな。
「あぁ、秘桜の作った料理、楽しみにしてる」
「っ……!うん!楽しみにしててね!」
秘桜はそう言って、俺に微笑みかけた。
そして、今度秘桜の家に秘桜の作った料理を食べに行くことを約束した俺と秘桜は別れた。
「秘桜の笑顔は、本当に綺麗だったな……誰かに見惚れることなんて、生まれて初めてだ」
秘桜と関わっていく中で、俺の中の何かが変わっていっている……俺はそのことを実感して、さっきの秘桜の笑顔を脳裏に過らせながら、一人帰り道を歩いた。
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