第3話 二人で住みたいケンちゃん
「レオナちゃん、二人で住むべよ」
ある夜、唐突にケンちゃんが言い出した。
栗林家は代々農家(豪農)である。
田舎の豪邸はとにかく広い。部屋なら旅館並みにある。門にも住めるくらいなのだ。お父ちゃんはここらの組合のお頭さまである。
「俺、ずっとこの家に住んでて、他を知らねえ。畑継ぐのはいい。でもよ、ちょっとくらい家を離れてみてえ」
「はあ、私は別にいいですよ。でも、お義父さんとお義母さんは許してくれますか」
レオナちゃんはゲームの手を止めて、真剣に考えた。
「別に遠くじゃなくていいんだ。ただ、この家のいろいろから離れて過ごしてみてえんだよ」
「わかります」
レオナちゃんはこっくりとうなづき、明日言ってみましょう、お二人に♡と言った。
ケンちゃんは嬉しくて嬉しくて、レオナちゃんに抱きついた。
その話を聞いた途端、
「お、そうか。いいんじゃねえか」
とお父ちゃんが言った。
「なあ、ヤス子」
「うんうん、ケンイチたちの好きにしたらいいよ。別に仕事は実家なんだし」
あっけなく了承され、顔を見合わせるケンちゃんとレオナちゃん。
「そんならよ、なにも借りなくてもいいべ。建てっちゃえよ、家」
「ええええ!!!お父ちゃん、それは…」
「二階建ての、マンションとアパートの中間くらいの箱がいいべ。そんで、一階に店を入れて、家賃収入もある物件にすっぺ」
なんだか話が恐ろしく大きいことになって、新婚の二人は冷や汗をかいている。
「心配すんな。俺の友達に万事任せて、おめえらは楽しみに待っとけ」
そっと、お母ちゃんの顔を見たレオナちゃんは、お母ちゃんの目がキラリと光ったのを見た。
それからは、お父ちゃんの友達の建設業の社長さんが何回もやってきて、デザイナーも連れてきて、色や間取りを丁寧に決めていった。
「いい建物になりますよ、栗林さん。この土地で初の素敵なハイツでしょう!」
「そりゃいいねえ。うちの跡取りが、嫁のために建てるから、素晴らしいものにしてやりてえからよ、頼むぜ」
お父ちゃんはその会議にレオナちゃんを必ず出席させ、意見を求めてくれた。
「ありがとうございます、お義父さん」
レオナちゃんは幸せすぎると思った。
自分は何ができるだろう。小松菜のこと手伝わなくちゃ、とそわそわした。
「いいんだ、おめえが喜べばケンイチは幸せなんだからよぉ」
3ヶ月後、二人のハイツは完成した!
焦げ茶色のおしゃれなハイツ。その名も「レオナハイツ」。
さすがにやめてくださいとレオナちゃんはお願いしたが、お父ちゃんは聞かなかった。
「おしゃれな名前だっぺ。何が悪いんだよう」
「すげーいいと思う」
ケンちゃんもバカみたいに喜んでいた。
一階の店舗は小料理屋さんが入ることになっていると、お父ちゃんが言った。
えっ、そうなの?早くねえ、決まるの。とケンちゃんが言うと、いつもはっきりしているお父ちゃんが口の中でモニョモニョと言って誤魔化していた。
お母ちゃんの目はいっそう光っていた。
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