第7話 お母ちゃんとギンザ

よく晴れた春の日曜日。


お母ちゃんとそのツレ2名は、銀座のスペイン料理店にいた。


「ヤス子さん、顔が晴れ晴れしてますね!元気そう♡」


ルリコがビールを飲みながら上機嫌に言った。


ふふふ、霧が晴れたんだー、とヤス子。


レオナちゃんは例の話の「その後」が聞きたくてウズウズしていた。


「うんまいな、このスープ!」


「ね、美味しいよね!私これ大好きなんだ」


レオナちゃんもうなづく。


「で、パパの疑惑は晴れたのね!」


ルリコが笑う。よかったよー、と。


「そうなんだぁ、あの人。35年前のことがよくよく懲りてたんだねぇ」


お母ちゃんがレオナちゃんを自室に呼んで昔話を聞かせた次の日、危険を察知したお父ちゃんは、自らヤス子の部屋を訪れ、レオナハイツの居酒屋の女将について語ったという。


「父ちゃんの友達に酷いことされたんだと」


女将は加藤志乃といい、か弱そうで大人しくて、だから男どもがほっておかなくて…という、よくある話だった。


「うちにも挨拶に来たよなあ、レオナちゃん」


「はい」


栗林さんのご厚意に甘えてすみません、精一杯やりますので、と着物を着て玄関口で頭を下げたという。


「洗える着物だったけどね」


ふーん、とルリコ。


「まあ、あれだよ。ヤス子ママの対極にいるような女の人だよね。自分が完璧に幸せだからさ、たまにそういう薄幸な女にかまってやりたくなるんじゃない?」


「はっこう?」


幸が薄いって書いて、はっこうだよ。

ああ、それね。


「薄幸って、一時的にすごいフェロモン出すんだ。ああ、この女は俺が救ってやりたい、って思わせる空気出すんだよ」


うんうん。

こくりこくり。


「でもさ、お父ちゃんはすぐに正気に戻って、自分の手にしたものを全部なくすリスク考えて、震えたんじゃない?あははは」


「誓って、俺はあの人と何の関係もねえから、って。何回も言ってたよ。ただ縁があったんだと。俺の友達に遊ばれて捨てられたしな、って」


「それは自己責任で、お父ちゃんには関係ないじゃん」


「理屈だよ、ただの。気に入ってっから店出させたんだよ。わかってるわかってる。でもさ、かわいいじゃんと思ったんだ」


うふふうふふ。

こくりこくり。


「確かにかわいい。あの人がそんな言い訳してくるのは…」


「お義父さん、がんばりましたね」


「そういう人はさ、一年もしないうちに、また変なおっさんと恋仲になって、結婚するから店辞めます、お世話になりました、って言うんだよ

。まあ、見ててみ」


わー、パエリアが来たー!

ヤス子さんの美味しそうじゃん、あとで一口食べさせて!

白ワイン飲む人は?


昨日、お父ちゃんに、銀座でレオナちゃんとルリコさんと遊んでくる。と言ったら、お父ちゃんは財布を出し20万円くらいくれたのだ。


その気持ちが嬉しかったお母ちゃんだった。こんなの年にいっぺんもあるかどうかの全休日♡である。


今頃、お父ちゃんはケンを誘ってアジフライ定食を食べてるだろうか。


これから買い物をしてー

何とかいうホテルで、アフタヌーンティーっつーのを食べるんだと。


軍資金たっぷり、笑いたっぷり。


お土産もいいやつ選んでもらわなくちゃねー。


明日はけんちん汁でも作ろうか。



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