第31話 人事会議

ルリコと寿賀子は、事務所にこもってうんうん唸っていた。


人事を少し変えるのだ。


苦しんでいるのではなく、嬉しい唸りである。


「美味しいわね、これ」


「いいでしょ、これ」


ルリコがシンガポールに行っている間、寿賀子が「運命の輪」でサンドイッチ選手権をしたという。


「みんなで投票して、いちばん票を集めたサンドイッチを社長にプレゼンするわよ」


つまり、選ばれた者は昇給になる。

やるに決まってる!


焼きサンドを作る者、フルーツサンドを作る者、多種多様なサンドイッチが居並ぶ中、優勝したのは、からしマスタードを塗った食パンに、ハムを挟んだだけのサンドイッチだったのだ。


「結局、こういうことなのよね」


「ほんと、驚くぐらい美味しいの。飽きないし」


「これ作ったのはサッちゃんか。昇給だね。彼女は何年目?」


「えーと…2年半だぬ」


ルリコは感心した。本当に優秀な人は、センスがある人だ。


原価かけずに、いつもある食材で、心憎いつまみや軽食を作れる人。


サッちゃんは目立たないけど、こういうコンペに3回勝っている実力者。密かに二人は彼女を推しているのである。


「そろそろサッちゃんにやらせようか」


「行きますか!」


サッちゃんは事務所に呼ばれて、ものすごく緊張していた。


ちょっと、硬くならないで、サッちゃん。


は、はい!


「あのね、あなたに副料理長を任せようと思っているの」


「えっ!」


4, 5人抜いての抜擢だが、運命の輪ではあるあるなのである。


「うちの料理長にも連休を取らせたいのよ、もっと頻繁に。その時に、彼の代わりになる人はサッちゃんかな、って今二人で話しててね」


サッちゃんは真っ赤になって、ルリコの話を聞いている。


「引き受けてくれるかな?」


「は、はい!やらせていただきます」


おっ!いいね!


じゃあ、今日の夕礼でみんなに言うからね。


サッちゃんが案外すんなり引き受けてくれて、寿賀子は驚いていた。


「よかったね、実はサッちゃん喜んでたわ、すごく」


「ほんと?」


「あの子、真っ赤になって喜ぶの」


寿賀子はかわいいんだ、と笑った。


サッちゃんは去年の秋の、パフェ選手権でも優勝してるし、働き者だし、誰も文句はないはずだ。


「うちって、人材に恵まれてるわね」


「ほんとに。あっ、パラデイザのお掃除の人も二人決まったよ」


「まさか、薄幸エロおばさんじゃないでしょうね?」


ギャハハ!

まさか!


「大学生の女子と、うちの洗い場の佐々木さんだよ」


えっ?ダブルワーク?佐々木さん。


子供が受験なんだって。二人とも。


「それに、社長のとこなら安心だからー、って」


「それは嬉しいけど。身体壊さない程度にね、やってもらおう」


「シフト、気をつけておくよ」


うんうん。

インドカレー食べない?

食べるー。

駅前にできた店、偵察に行こう!


株式会社ペンタクル「運命の輪部」役員会が終了した。

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