第28話 シンガポールで親子4人

「ルリコさんの岩盤浴で、お掃除のパートを募集したんですって、最近」


おっ、急にレオナちゃんが発言している。

しかも、シンガポールのMRT内で。


そう。

急に栗林家4人は、家族旅行に出かけることになったのだ。


「大丈夫よ、お父ちゃん。あたしもいるし、ケンの家はルリコさんがたまに風入れるって」


と、子供2人連れて戻った京子が言うし、ケンとレオナちゃんが一緒に行こうと言うしで、栗林武雄&ヤス子は決意を固めた。


先程やっと空港に着いて、レオナちゃんの後ろにくっついて歩いている。


レオナちゃんは、なんとかカードというのを人数分買い、それぞれに渡した。


「これで、バスもMRTも乗れます」


はぁー

へえー

ほぉほぉ


今、泊まるホテルに向かっているのだ。


そこで、急に岩盤浴のパート募集の話する?


一応頷く3人。


「そしたら、うちの下で最初にお店開いた方が、面接に来たんですって!」


ええーっ!

し、志乃さん?

あの人が?


そう!あの「薄幸パワー」おばさん、加藤志乃さんである。


「また、お一人になったそうで、働き口探してるそうです」


「一年たたないよね?」


「そうだなぁー」


「人生のサイクル、早くねぇか?」


なんで、前に話さなかったの?レオナちゃん。


ふふふ。ルリコさんが、旅先で話すともっと面白いからと。


「あははは」


「確かに!」


「あ、ほら、凄いビルがたくさん建ってる!」


ところで、ルリコさんは採用したの?志乃さんを。


「いえ、縁起が悪い人は嫌だそうです」


3人は爆笑した。


降りる駅に着き、地上に出ると、南国の暑さがモロに押し寄せてきた。


スマホを取り出し、地図を見ながらホテルまでアテンドする嫁を、老夫婦は頼もしく思った。


「ケンも、こうやって案内してもらったのか?フィンランドを」


「うん。レオナちゃん、よく調べてんだ。俺もやろうとしたけど、これは旅慣れてないと何調べていいか、わかんねえもんだよ」


ものの3分でホテルに着き、みんなでフードコートに出かけた。


「へぇー、こんなとこ、あるんだねえ。どこの店でも買えて便利だこと」


お母ちゃんはレオナちゃんを連れて、麺やデザートを買ってきた。


「お父ちゃんが食べられそうなもの、俺見てくるよ」


ケンちゃんは焼き鳥のブースなどを覗き込んだ。そして、まずはタイガービールを3本仕入れてきた。


「お義父さん、これ食べてみてください。シンガポールの名物なんです」


レオナちゃんは、バクテーを武雄の前に置いた。


おお、ありがとありがと。


お母ちゃんは、緑色のお餅を買ってきた。


「これ、めちゃくちゃうまいんだと!ルリコさんも大好きなんだと」


マレーシアの餅菓子、オンデオンデをパクパク食べるお母ちゃん。美味しい!を連発している。


武雄はバクテーや焼き鳥をつまみながら、ビールを飲んでいたが、よくわからない感情がハートに込み上げてきた。


どしたの?あんた?


あ、いや、幸せだと思ってよ。


うんうん。ありがとね、父ちゃん。


こちらこそ。


ケンちゃんと、レオナちゃんは笑いながら、焼きそばとお茶を持ち、こちらへ戻ってくるところだ。


完璧な家族旅行。

お土産何買おう。

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