第27話 最高ってこと

「僕ってエジプト人の血が8分の1入ってるんだよ、知ってた?」


「えっ!知らねえ。そうなの?」


アイくんの曽祖父がエジプト人で、日本人の曽祖母と結婚したそうである。


「だから、うちの父はエジプト人と日本人のクォーターなんだけど、骨の髄までエジプト研究者なんだよ。もーエジプト狂い。古代エジプト原理主義者。だから、僕は嫌気がさして南アメリカ大陸の文明を専攻したってわけ」


へー。親父さん、がっかりしたっぺな。


「まあね。でも僕は危うくファラオの名前になるとこだった。ラムセスとか、ツタンカーメメンとかさ。気絶するよな、そんな名前。母や祖父母が止めてくれなかったら、相当生きづらかったろうね」


やべえ父ちゃんだな…


ケンちゃんは、自分の両親が普通でよかったとしみじみ思った。


「あのさ…、あのー、ルリコさんと結婚したことは…その、親御さんには…」


「ああ、そりゃもちろん、伝えたよ。家族のLINEみたいので」


そ、そんな、簡単でいいのけ?


いいの、いいの


「そ、そ、その、年の差だいぶあることとかは?」


アイくんは笑って、そのこと?と言った。


「僕の両親は今、エジプトにいて、姉はアメリカにいるんだ。そんなことは誰も気にしないのさ。結婚したの?おめでとう、よかったね、だけだよ。ビデオ通話で彼らはルリちゃんに会ってるし」


「そういうもんなんだ」


「そういうもんなの」


ケンちゃんは3本目のロゼワインを開けた。楽しいな、こういう話。


「おもしろいよな、こうやって人は繋がるんだな、って思うんだ。レオナちゃんと一緒になって、俺の周りだけでもまるっきり変わったべ?」


だいたい、レオナハイツって家ができたこともびっくりだし、その下でよしとみさんちの嫁さんが店やるとかよー、考えられねえ。ヨガだって初めて知ったし。


俺の元の嫁が来ても、レオナちゃんは平気だし、姉ちゃんなんか家出てきた。


「びっくりばっかりして、目が回りそうだけどよ。楽しいんだ。こんなに楽しかったことはなかったな、今まで」


「よかったね、ケンちゃん。やりたいことやれてる証拠だよ」


すると、奥の部屋のドアが開いて、ルリコが出てきた。


「見て見てー、アイくん♡こんなに可愛くなったよ、私の手」


「おお〜!本当だ!京子さん、すごいじゃない!」


ね、ね、上手だよ。ケンちゃん、ほら!


「あ、あ、ああ、すげえ」


ルリコの爪は、水色やピンクがマーブル状に塗られ、キラキラやツブツブが乗せられ、宇宙のように煌めいていた。


「これは、京子ちゃん、相当勉強したわね。…って、ワインの空き瓶がすごいね」


ルリコは瞬時に2人の酔い度を感知した。


「レオナちゃーん!旦那さまがめちゃ飲んでるよー」


「本当ですかー、あらー」


「ケン!あんた、こんなに飲めたんだ?」


爪の保護のため動かないルリコと、酔っ払いの男2人はリビングにおいて、義理の姉妹は夕飯の支度を始めた。


「ねえ、レオナちゃん!うちの父ちゃん母ちゃんをここに呼んでもいい?こんな大集合なくない?」


「いいですね!お義父さん、あんまり来ないし、たまにはお呼びしましょう!」


酔っ払って寝ている2人をおいて、5人は夕飯を食べた。


「男は俺一人か。なんか、得したな、はっはっはっ!」


「酔っ払って寝てるケンなんか、珍しいねえ」


テーブルにはお母ちゃんが揚げてきてくれたかき揚げが乗っていた。


レオナちゃんは2人分先に取り分けている。あとで天ぷら蕎麦にしてあげるのだ。


京子の勉強の成果を、両親に披露するルリコ。


照れている京子。


今夜も完璧である。





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