第29話 魔法使い

2日目には、世界一と称されるシンガポール動物園に行った。


豪勢にタクシーである!


とりあえず、と。

お父ちゃんはレオナちゃんに100万円渡していた。


とりあえずも何も、マリーナベイサンズのレストランで豪遊するわけじゃないので、たぶん4日で20万も遣わないだろうとは思ったが、レオナちゃんは預かった。バッグが札束で重いなど、初めてのことである。


動物園はとても好評だった!

なんせ、目の前を普通に動物が歩いていたり、虎の前には柵もない。


栗林ファミリーはかなり動物好きで、レオナちゃんはとても嬉しかった。


ただ、楽しい♡すごーい♡となった後に、「京子にも見せてやりたいねえ」と必ずお母ちゃんが言うのだった。


2人もうん、うん、と悲しげに頷く。


「あとで連れてくっぺ」


うんうん。


その時、レオナちゃんは歯を食いしばり、何か言うのを堪えていたのだが、みんな気が付かなかった。


動物園を見て、お昼になったので、園内のレストランに入った。


しきりにレオナちゃんがスマホをいじっている。


「どしたんだ?レオナちゃん。日本から連絡あったのか?」


「はい。ルリコさんに動物園の写真送ってました」嘘ではない。


滞在2日目にして、お父ちゃんはランチのメニューを見たいと言い出し、なんと自分の分を買いに行ったのである!


お口に合ってよかった!とレオナちゃんは安心しつつ、あたりを見回す…


そして、満面の笑みを浮かべて手を振り、武雄とヤス子のいる方を指差した。


「なんだ?どした?」


ケンちゃんが振り返ると、そこにはルリコと京子がいたのである!


な、な、な、な、なんで?


ケンちゃんはジタバタして驚いた!


「しっ!ケンちゃん、今からお父ちゃんとお母ちゃんを驚かすんだから!」


京子は父母を見つけると、スタスタ歩き、そっと囁いた。


「お父ちゃん、お母ちゃん」


武雄とヤス子の驚いた顔が、泣き顔になるのを、レオナちゃんは見た。


今世紀最大のドッキリが決まった!


「ちょっとー、ほんとに。2人して年寄りを驚かして!」


文句を言いながら、ずーっとニコニコのお母ちゃん。


「レオナちゃん、知ってたんだっぺ?」


「はい。絶対だまってろ、とのことでして」


「急に決まったのよぉー。2日前にマリーでご飯食べてる時に、サオリちゃんと美咲ちゃんがね、行ってくればいいのにーってね」


「そうそう。私なんかネイリストの先生にパスポート取っておいてと言われて、取ったからよかったようなもんでさ。出来立てホヤホヤのパスポートだよ!」


武雄が満面の笑みで、ルリコにビールを注いだ。


「俺らも、京子がいればよかった、ってずーっと言ってたんだ。なんだか、話聞かれてるみてえで怖いわ」


うんうん。


「最初からあんたも誘えばよかったのに、ごめんね、京子」


お母ちゃんが泣いてるので、京子姉ちゃんは死ぬほど慌てた。


「ちょ、お母ちゃん!やめて。こっちこそ、気を使わせちゃっててほんとごめんね」


「それに、この方が面白いよ!絶対!後から京子現る!の方がさ!レオナちゃんには悪かったけど。もうないからね、ごめんごめん」


お父ちゃんはルリコに頭を下げて言った。


「ルリコさん、ほんとにありがとう。京子と一緒に来てくれて!」


ルリコも絶句してしまい、涙が出てきた。。


いいのよ、当然でしょ。面白いの、好きなんだから私。


「写真撮っぺ!な!写真写真」


ケンちゃんがスマホを持って離れる。


次、私撮る!


じゃ、次は私!


京子ちゃんは全部いなくちゃダメ!


後に、この写真はA3サイズに伸ばされ、栗林家の居間に飾られることになる。


「最高だな、母ちゃん」


「ほんと、まさかだわ!嬉しいまさか!」


「俺には娘が3人いてよかったな」


「そういうこと!」


お父ちゃんは自分で選んだカレープレートをパクッと食べた。





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