第22話 栗林家会議

「よりによって、うちの娘が金で苦労してたとはなぁ…。まったく、知らぬが仏だっ」


お父ちゃんがこんなにガッガリするのを見るのは、10年前に、台風で畑のビニールハウスが全壊したとき以来だ。


「京子の意地っ張りで、頑張るとこが、裏目に出たなぁ」


もっともっと早くに知りたかったと、お母ちゃんは泣いた。情けないよ、まったく!なんて暮らししてたんだい。


確かに同じ服を着てることが多いなとは思ってたけど、好きなんだろう、としか思えなかった。だって、まさかね。自由に使える金がもらえてない、だなんて。


「離婚届、さっさと出してうちに帰ってこい。揉める様なら弁護士を頼んでやる」


お父ちゃんの言葉にホッとしたのか、京子は涙を流しながら頭を下げた。


ありがとう、お父ちゃん。


そう言って帰ったのが30分前だ。


ケン、お前も知らなかったのか。


全然、知んなかったよ、オレ…。姉ちゃんがあんな大変だなんてよ。


言うわけないもんね、京子が。


お母ちゃんが、熱いお茶を入れ直して来て、台所に座る。


無言でお茶を啜ってると、玄関から大きな声でこんにちは〜と聞こえた。ルリコだ!この場をぶち壊す、ものすごく明るい声だ。


ほっとしたように、はーい!と声を揃える3人。

あがってー!


「久しぶりでーす!帰ってきたよー!」


ルリコは寿賀子や社員たちにすべてを任せ、若き考古学者の恋人アイくんの発掘現場に行っていた。


「どうだった?ペルーは」


「ご飯がぜんぜん合わなくて、大変だったよ。痩せたと思わない?」


うーん…そうかな?

わかんない。


「もういいわよ!それより、京子ちゃんのことだけど」


えっ?3人はギョッとしてルリコを見た。


京子の話、知ってんのけ?ルリコちゃん。


知り合って割とすぐに相談された、とルリコ。


「はあ?なんでそんなとこにいるの?栗林のお嬢さんが?って。とっとと別れろって言ったわよ」


3人は暗い顔で頷く。


「とにかくドケチなのよ、京子ちゃんの旦那が。義理の両親もドケチ。金だけは唸るほどあるけど、生活がどうしようもなく貧乏で呆れた。子供たちもおっつけ来るわよ、こっちに。ゲーム一つ買ってもらえないんだって」


潤いのない暮らししてると、病気になるよ。本当よかったわ、離婚して。


「俺らには普通に見えてても、中身は全く違ったんだな…」


とにかく、もう、大丈夫だよ!

この家は部屋たくさんあるし、美味しいご飯食べられるし、


ルリコはニコッと笑った。


「娘が子供連れて帰ってくるって、最高だね!」


そ、そうだな…

うんうん

俺も甥っ子姪っ子と遊べるしな


3人はようやく大きく息を吐いた。そして、夕飯は5人で焼肉に行ったのだ。








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