第33話 こちらも同級生訪問
栗林農園の直売所はレオナちゃんが嫁いでからできた。
あまり大きくしない方がいいと思います、というレオナちゃんの意見で、20畳くらいになった。
小松菜の他、余った敷地で作ったにんじんやダイコン、おしゃれ野菜が並ぶ。
ちよっとしたカフェスペースもあり、お客さまたちが宅急便の紙を書いたり、働いてるおばさまたちの休憩場所にもなったり、有効に使われているのだ。
野菜の他には、ルリコがねじ込んだ野菜用のソース類もある。ソテーしたり、ディップしたりする便利なもので、もちろん「運命の輪」ブランドである。商売は全方位、すべてに顔を出すのが信条だ。
食品以外で大人気なのは、レオナちゃんのペーパークラフト作品である。3Dの立派なもので、ケンちゃんが用意したケースに入れて売られていた。
一万円以上買うと付いてくるものだったが、いつしか売って欲しいという人が続出し、レオナちゃんはせっせと折り紙を研究する日々である。
「恐れ入ります、レオナさんはいらっしゃいますか?」
お茶を飲んでいた、仕事あがりのおばちゃんたちが振り向くと、そこには、ここには完全に不釣り合いな、芸能人ばりのスタイリッシュな男が立っていた。
濃紺のジャケット、ベージュのスラックス、白いTシャツ。色白の肌に整った顔立ちの男はにこやかに挨拶した。
「私、竹芝と申します。レオナさんの同級生でして、野菜を買うついでにもし会えたらと、思いまして」
ちょ、ちょ、ちょこっと待ってくださいね
あ、ここへ座ってください
若奥さんに、今、電話してみますんで
おばちゃんたちはテーブルをさーっと片付けて、この男を座らせ、冷たいお茶を出した。
レオナちゃんが、ケンちゃんに送られてやってきたのは20分後。
ケンちゃんは嫌な予感がして付いてきたが、男を見て、険しい顔になっていた。
「あ、レオナちゃん、久しぶり!」
「あら、どうも」
「ここの農園の野菜、東京のレストランで有名でさ。うちも買おうと思って来てみたんだよ」
レオナちゃんがケンちゃんを紹介しようと振り向くと、もうケンちゃんはいなかった。
1時間後、畑で汗を流すケンちゃんに、レオナちゃんは手を振った。
「夕飯、みんなでしゃぶしゃぶですってー!」
「おおー!わかったー!今行くからー、そこにいろー」
さっきの男を気にしてるだろうと、普段しないお迎えをしたレオナちゃんを、ケンちゃんはありがたく思った。
俺はヘタレ野郎だな、まったく…
「すまなかったな、レオナちゃん。同級生に挨拶もしなくてよぉ」
「いいんです、商売のついでに寄っただけだから」
「そんで?」
「は?」
「なんだって?」
「だから、野菜を買いに来たんですよ!」
レオナちゃんは珍しくイライラした。
「売りましたよ、15万円分。順次配送になってます」
「な、なに?そ、そうか、ご苦労さん」
フン!とレオナちゃんが行ってしまうので、ケンちゃんは早足で歩いた。
「ごめんよ!ごめんごめん」
ケンちゃんはよろけながら、必死に言った。
「ヤキモチ焼いちまったんだよ、ごめんよ。…なんか、あいつがカッコよくて、キラキラしてて…馬鹿みたいなこと考えた!」
ふふ!
レオナちゃんは笑って振り向いた。
夕日がオレンジに輝き、農園の野菜も瑞々しくて、世界は平和を取り戻した。
意地悪な女じゃなくて助かるんだー、いつも…
ルリコさんだったら、散々にいたぶられる案件だったと、ケンちゃんは勝手に冷や汗をかいた。
「今日たくさん働いたので、ボーナスくださいね」
「はい、はい、はい、もちろんですよ、奥さま」
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