第34話 振り返る

「…お母ちゃん、楽しそうな顔してるね」


パソコンの中の写真に、悦子が感心したように言った。


最近、栗林武雄はパソコンができるようになったのだ。レオナハイツの一階で、パソコンを習いたい人を集めて、講師を呼び教室も始めた。


「京子が現れた時は、たまげたっけな!」


「動物園で会ったんでしょ?」


「そうだ。まったくなあ、途方もねえことやるからなぁ、あいつら」


「じいちゃん、これ何?」


「ああ、それは、ばあちゃんがやたらと気に入って食べてた甘い餅だ」


「こんな緑のやつ、美味しいの?」


「美味いなんてもんじゃなかったね、それは。中の蜜がプチって弾けんだよ」


ヤス子がお茶と、お茶菓子を持って居間に来た。


「エツも食べたら驚くべな、美味くて」


「えー、食べてみたいな…じいちゃん、今度は私も連れてって欲しい」


「あー、そうだな。次はおめえとカズを連れて行かねばな」


「やったー!」


教室で習ったことをメモにし、すぐにパソコンでやってみるのが上達の早道です!と講師に言われたので、お父ちゃんは真面目に実践している。


「本当にここにいたのかな、って思わねえか、母ちゃん?」


屋根の上にプールが乗ってるホテルを背に、家族全員が並んでいる写真を加工するお父ちゃん。


「本当に…。夢のようだったねえ…楽しかったわ。そうそう、意外とあんた、どんな料理も食べてて感心しちゃったよ」


「我が家も国際的になってきたっぺよ。それに合わせて、何でも食べれた方がいいと思ったんだ」


「うん、いいことだよ、父ちゃん」


「じいちゃん、早く次の写真見せてよ」


おお、そうだな、と、栗林家の居間には穏やかな時間が流れていた。

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