第35話 社員旅行
ルリコの会社は、「株式会社ペンタクル」といい、「運命の輪」という飲食店、「月の砂漠」という宝飾雑貨店(実店舗はなし)、「パラデイザ」という岩盤浴店、「パラスアテナ」という店舗プロデュース店を運営している。
いちばんの大所帯は「運命の輪」で、社員とパートさん合わせて18〜23人くらいである。産休や病気療養後も戻ってくる人が多い。
「月の砂漠」はルリコ一人でやっている。もともとは旅先で買って来たジュエリー、布、絨毯、ランプなどをネットで売っていたのだが、個人客から商売人まで、いろんなお客さんが付いたので会社にしてある。
「パラデイザ」は先ごろようやく一人専任の女性が入り、彼女が休みの日は、ヘルプで「運命の輪」のスタッフがシフトを組んでいる。
どこで欠員が出ても、[シフトの魔術師]こと、寿賀子が働きたい人を募り、うまく回している。
そんな「株式会社ペンタクル」の年に一度の社員旅行は、3チームに分かれての三泊四日で、参加は自由。旅行が嫌いな人は行かなくていい。
こんな旅行どうだろう、という社員が考えたプランが何本か休憩室に張り出され、投票するシステムである。
上位3本が選ばれると、ちょうどいい塩梅にスタッフを調整していざ!となる。
今年は、
北海道チーム
伊勢参りチーム
九州チーム
に分かれて、みんなで楽しく行ってくる‥だけではなく、旅先で何かを持ち帰るというミッションがあり、帰ってから3日以内に報告書を出す決まりだ。遅れた者は減給である。
この食べ物はお店で出せるかも…とか、こういうサービスに感動した‥とか、こういう内装かっこいいのでは?とか、なんでもいい。
このときの報告からメニュー化され、人気が出て定番になることもあるのだ。
もちろん、採用された人は昇給である。
「寿賀子ちゃん、どこのチームで行くの?」
「んー、まだ未定。社長は?」
「私、道東行きたいから、別で行くわ。これ札幌とか函館チームでしょ?」
「そっか。あ、マリーチームに声かけてない。行くかしら?社員じゃないけど」
カフェ・マリーのサオリは社員ではないが、店舗プロデュースの契約をしているので、何かと行事には参加してくる。
「一応声かけてみれば?とくに補助金は出さないけど、って」
「はーい、連絡しまーす。私は四国行きたいんだよね。別で行こうかな」
「そうしな、そうしな。寿賀ちゃん、靖彦くん、私が全員いなくならなきゃ大丈夫だから。いつも行かせてもらってる私が店に立ちましょう!」
「じゃあ、お言葉に甘えて行かせてもらうね」
結局、カフェ・マリーの2人と寿賀子の3人で四国に行くことになり、その4日間はルリコが店舗にいることになった。
というわけで、朝から社長がいるわけである。ちょっと違う雰囲気はキッチンや客席に伝わり、少し静かになっていた。
長くて仲良しのお客さまは、ルリコと喋って喜んでいたが、最近のリピーターの方たちには?である。
「靖ちゃん、もしや、私が働いてるの違和感?」
「なんでしょうねぇ、このムード。久しぶりです」
店長は首を傾げた。
「いつもは頼れるキャプテンがいるけど、今日は怖い将軍が来た!って感じでしょうか」
ここの店長は、はっきりした性格だったの忘れてたわ。
「面白いこと言うわね、あんた」
自分の店なのにね、とルリコは笑ってしまった。お店は育つもの。ありがたいね!
こうしてみんなが外に出かけて、面白いものを持ち帰るだろう。また楽しみだわ!
「ありがとうございました〜!行ってらっしゃいませ」
ルリコはお盆を持って片付けに行く。誰よりも早く。
負けないわよ!
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