第41話 あー、びっくりしたあ!

カランカランとドアベルが鳴り、ルリコとアイくんが出勤してきた。


おはよう!

おはようございます!


「おはようございます、社長。同伴出勤ですね」


「うるさい。K建設のランチお弁当、配達行ったの?」


「先ほど、寿賀子さんが行きましたよ」


「なら、安心だわ」


アイくんはカウンターのいつもの位置に座って、論文を読んでいた。


「何飲む?アイくん」


俺に対する口調と全然違うもんなー、の目で靖彦がルリコをチラッと見る。


「うーん、今日はココアが飲みたいな。あったっけ?」


「あるよー、喫茶店だもん」


ルリコが飲み物カウンターに入っていった。


靖彦がフンと言ったような気がするが、気のせいだろう。


ルリコが自分のコーヒーと、ココアを手にカウンターに戻ると、アイくんが店の窓際に沿うようにある一人席の、ある女性客と話している。


なに?知り合い?


さあ?


アイくんはルリコの方に振り返ると、ちょっと来てと手を振った。


とても困った顔をしており、ルリコの胸がざわつく。


「どしたの?アイくん」


「ルリちゃん、僕の姉です」


ええええええー!


「初めまして、ルリコさん。緒川ミカです」


「あ、え、はい、初めまして、おね…」


「やーだー、お姉さんて呼ばないでくださいよぉー。ミカで!」


「は、はい。ミカさん。何時ごろいらっしゃったんですか?連絡いただければ家に…」


「開店と同時です。だから2時間半もいますね。モーニングも3種類食べちゃいました!」


アイくんの顔には、絶望の文字が見える。


とにかく、テーブル席に移動する3人。


ミカはアメリカのスミソニアン博物館の非常勤研究員で、地質学の専門。


「アイくんが結婚したって人に、どうしても直接会ってみたくて」


わざわざ日本に来たという。


ウェブでは話しているが、運命の輪での直接の再会は、なんと13年ぶりという姉弟であった。


「幸せそうですごく嬉しいよ、アイくん」


「う、ありがと。幸せに暮らしてる。僕も南米行ったり、日本に帰ってきたりの生活なんだけど、ルリちゃんがたまにメキシコ来てくれたりもあるし、なんとか気持ち保ってるよ」


「前と顔つきがちがうし、安心した。ルリコさん、ありがとうございます。アイのことよろしくお願いしますね。難しい子なんです、昔から」


「え、アイくんが?難しい?そんなこと思ったことないけど。むしろ素直で楽だし、すごーく優しいですよ」


チラッと靖彦を見るルリコ。


それならよかった!

じゃあ、帰りますね。


「ちょっと!ミカさん。せっかく来たのに、帰るって…」


「無理やりもらった休みで、えへへ。夜の便でトルコに行くんです。世界最古の遺跡の調査が認められて」


「今日、僕がいなかったらどうするのよ!なんで、連絡くれないの?まったく、いつも姉さんはこうなんだから」


「いいじゃないの。私の運を試したの!外したことないじゃない、ずっと」


秋葉原で買うものあるから、本当に行くね。


うん。


「ミカさん、今度は何日か泊まる予定で来てください。絶対ですよ!」


「ありがとう、ルリコさん。アイをよろしくお願いします」


緒川ミカ研究員は財布から3万円出すと、ぐいとアイくんに押し付けた。


「会計と、お小遣いだよ。よろしくね」


ミカは小柄な身体にリュックサックを背負い、手を振って出て行った。


…お姉さん、すごく、、、嵐みたいな、、すごい人だね。


はぁー、びっくりした。いつもこんなふうに突然現れるんだよ。


ちなみに姉の本名は「ミカド」で、ファラオを日本名にしたという。


うちの父も、ほら、いっちゃってる人だろ?外ではミカにしてるんだ、子供の頃から。こんな名前で人生ダメにしない!という姉の考えだよ。


キラキラネームを遥かに越える名前だもんね。大変だー。


「何食べる?アイくん」


「何でも。ルリちゃんも、いっぱい食べなよ。なんせ僕は金持ちだからね」


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