第16話 予想外の訪問者

…とりあえず、お母ちゃんに言っとくか…


ケンちゃんはため息を一つついて、実家へ行った。


「あ、ケン。ちょうどよかったよ。きんぴら作ったから持っていきな」


ケンちゃんは、喉に石が詰まったみたいになって、声が出なくなった。


「どうしたの、あんた。顔色悪いね」


「ちょ、っと、水飲む」


お母ちゃんは、しばらくこんな顔は見てないと思った。レオナちゃんとなんかあったか。


「あいつが来たわ、さっき」


「あいつって………、まさか!」


「夏子」


「な、なんで、なんで、来たんだ?なんで来たんだよ、あの女は!」


お母ちゃんの顔がギュッとなる。


「俺の様子見に来たんだと。どんな顔してんだろ、って。見たくなったって」


「何言ってんだよ!相変わらず馬鹿にしてんな」


とりあえずお茶くれよ、お母ちゃん、喉がカラカラなんだ、俺。


2人は10人がけのダイニングテーブルに、隣同士で座った。


「SNSでサオリさんの店見つけて来たらしいんだ、だいぶ前に。でも、窓から見たらやってるのがサオリさんで、驚いて帰っちまったんだと」


お母ちゃんは、ケンちゃんが悪いわけでもないのに、ケンちゃんを睨んでいるのに気がついてない。


で、よくよく調べたら、あの物件は栗林健一が持ってて、上に住んでるってわかったんだと。あたしがいなくなって、ますます羽振りがよくなって憎たらしかった、って。


「何ふざけてんだよ」


お母ちゃん落ち着いて。


「でさ、レオナちゃんもいたんだ」


えっ!…………


でもさ、レオナちゃんは、こんにちはって言ったんだ、夏子に。


お母ちゃんの目にはとうとう涙が浮かんでた。


「お、お前…」


レオナちゃにはもう説明してたから。


レオナちゃんは平気だったんだ、そこにいる誰より。


「健一さん、先に行ってますね」って、マリーに入ってた、レオナちゃん。


誰でも納得するまで、いろんな道を通るんだって、ルリコさんも言ってましたって。


誰もその道を邪魔しちゃダメなんだって。


俺も、奴と話したかったからさ。


俺はお前には騙されたけど、今は幸せなんだって言ってやったよ。


そしたら奴は、そうなんだ、って言ったんだ。


それで、すぐ帰ったよ。


お母ちゃんは、そんならいいけど、と言った。


だって、夏子とは調停でけっこう争ったからね。どんなに、金がかかっても、絶対にこの女だけは許さないって、思ったもの。


そしたらさ、レオナちゃんがさ、

「これ、どうぞ」

って、サオリさんのサンドを夏子に持たせたんだ。


お母ちゃんは、今度こそ雷にうたれた顔をした。


俺も、なんで?って聞いたよ。そしたら、だってこんな美味しいの、食べられないのかわいそうだって言うんだよ。知ってて食べられないなんて!ありえないですよ、って。


レオナちゃんは菩薩なんだよ、お母ちゃん。


そう。


ケン、よかったじゃない。


うん。


俺も、奴が生きててよかったし。レオナちゃんを見せられて、なによりだったわ。俺は元気だしよ。


ケン、きんぴらすごく良くできたんだよ、とお母ちゃんがタッパーに詰め始めた。


うん。


お前、本当によかったね。


うん。


お母ちゃんは、めちゃくちゃ泣いていた。


ケンちゃんも、めちゃくちゃ泣いていた。


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