第50話 後継者

ケンちゃんとレオナちゃんは、昨夜実家でもらってきた手打ち蕎麦を茹で、ちくわ天やかき揚げを乗せて、ふーふー啜っていた。


「いやー、うめえな」

「美味しいですねー」


近所の蕎麦打ち名人、山本さんが丹精込めて打ったお蕎麦である。


蕎麦粉の香りも鮮やかで、喉越しも滑らか…これぞ職人の技だ!と2人は舌鼓を打ちまくっていた。


ケンちゃんがおかわりしようと席を立ったところ、玄関のベルが鳴る。


はーい!いいよ、レオナちゃん。


ドアを開けると、そこには甥っ子の和彦が立っていた。


「こんにちは、ケンおじさん」

「おお!カズ珍しいな、おめえ1人か?」

「ウン。ちょっと話したいことあって…」

「入れ、入れ」


レオナちゃーん、カズだわー、と言いながらリビングに行くケンちゃん。蕎麦はちょっとお預けだ。


「カズちゃん。いらっしゃい」


レオナちゃんは和彦とゲーム仲間だ。


だから、昨日やり足りなくて遊びに来たかと思ったが、様子を見るとそうではなさそうだ。


2人の飲み物を置くと、レオナちゃんは自室に引き取った。


どうした?珍しいなー。なんだよ、話って…


「あのさ、俺、今度高校行くじゃない?進路とか考えることになるけど、もう決めてるんだよ」


「ほおおー、すげえな、おめえ。俺がその頃はなーんも考えなくて、マンガ読んでたなー」


ケンおじちゃんは、栗林の後継ぎだから、それでよかったんだよ。ジュースを飲みながら、あっけらかんと言う和彦。


和彦は、親の離婚で悦子と実家に住むようになってから、ものすごく明るくなったと、京子が言っていた。安心して、未来を考えられるようになったのだろう。


「で?おめえ、何やりたいの?」


「農業!だからさ、よろしくお願いします、教えて!ケンおじちゃん」


ほんとか?おめえ。


「俺が考えてるのは…」


和彦が語る内容は驚くべきものだった。ケンイチはしばし、呆然。


(こ、こんな子だったか…?思った以上にすごいな、この子は…)


今どきの都会の飲食店のニーズに特化した、美しい葉物や、珍しい品種の芋類など、和彦の知識は相当なものだった。


「ネットで、なんでも見られるからさ!今は」


と照れてはいたが、勉強しなくては到底わからないことまで熟知していた。


老舗の料亭が必要としている、綺麗な葉っぱを集めて高く売るとか、畑の土のpHなんてことも言ってたくらいだ!


「俺も本気でやらなきゃ、カズに抜かされっちまう。すごいわ、アイツ」


さっき和彦が言っていたことを、自分は全然知らなかったと正直に言った。


「カズちゃんがそんなことを?前々から考えていたのでしょうね。…農業やりたいなんて嬉しいし。よかったですね、ケンイチさん」


後継者、嬉しいですよね…


レオナちゃんが呟いた。


「だよな?この業界、難しいもんな。若者が増えるのはありがてえ」


「お義父さんにはお話したんでしょうか」


「まず、俺に相談してから言おうと思ってたんだって!嬉しいよな!」


ケンちゃんは冷蔵庫からビールを取り出すと、美味しそうに飲んだ。


「レオナちゃん、蕎麦食べ直していいけ?」


「あ、はい。温めますね」


レオナちゃんは、微かに微笑んでいる夫を見て、嬉しそうにコンロへ向かった。



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