第10話 お父ちゃんを誘って

「ねえ、ランチしましょうよ」


ケンちゃんとレオナちゃんが新婚旅行中、お母ちゃんに電話がかかってきた。


ルリコからだ。


「パパも誘ってよ。すごくいいところ見つけたの」


ルリコは、あたしがご馳走するよ。この前の銀座のお礼だよ。と言った。


こうして、珍しく栗林家を空っぽにして、夫婦揃って街に繰り出した。お父ちゃんの愛車、「一番いい」クラウンに乗るのも久しぶりである。


大通りの一本奥の、ルリコが指定した駐車場に車を停めると、彼女が待っていた。基本50メートル離れてても発見できるけど、今日も個性的である。


「お待ちしてましたー」


どーもどーも。

おはよー。この前はどーもねー。


テーブルにつくと、ナイフ、フォーク、スプーンの他にお箸が置いてあり、お父ちゃんの顔がゆるんだ。


まず、スープとパンが出てきた。


赤いスープに驚いていると、シェフが「今日はビーツのスープです」とにこにこ笑った。


「すっごく、美味しいんだよ。パパ、食べてみてー」


「あ、ああ。いただきます」


「この前は、ヤス子さんにすっかりご馳走になっちゃって、ありがとうございました。パパの軍資金だってね。美味しかったわー」


いいんだ、そんなの。ヤス子もすごく楽しかったってご機嫌だったわ。山の神がご機嫌なら、うちはうまくいくからよぉー。


あははは、それは間違いないね!


「ちょ、ちょっと、ルリコさん!これ、銀座よりすごいんじゃない」


「でしょ?でしょでしょ。私もぞっこんラブなんだよ。週に2回来ちゃうときもある」


ヤス子が美味しいと何回も言ってくれるので、ルリコの心は沸き立った。


「うん、うめえ。野菜の味がしっかりしてて、味も最高だわ」


わー、栗林武雄も褒めてるよー、シェフ、よかったね。


「そういえば、レオナちゃんから旅行の写真きたの。見せるね」


スマホの写真を2人に見せる。


わー!

わー!

お父さん、ケンがこんなとこにいるんだね!

おおー、すんごい景色だな。映画みてぇだわ。


「今度は2人で行ってきたら?」


ルリコがハムを切りながら言った。


「えっ、私らが?外国へ」


うんうん。

簡単だよ。ちゃんと教えるし。レオナちゃん連れてってもいいし。


「だって!お父ちゃん!行く?」


「いいかもしんねえな。俺らも元気なうちに歩いてみっか。ケンがいればなんとかなるし」


「ケンはレオナちゃんを寄越すかね?」


「その時は私が行くわよ」


「いいなぁ、考えただけで楽しいなぁー」


三人はスパゲティを堪能しつつ、どこに行きたいかを考えた。


そうなのー。旅行って、考えてる時がいちばん楽しいんだよー。


ニコニコな三人の写真をシェフに撮ってもらい、ヘルシンキに送った。









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