第11話 レオナハイツに来客あり

フィンランド旅行から帰宅し、ケンちゃんとレオナちゃんは、時差ボケでくたばっていた。


「何時だ、今…?」


「わかりませーん」


やっとの思いで洗濯物を出し、二人はパタンと倒れた。なんとか実家へは戻りましたの挨拶だけしたのだが、二人の疲労を察知したお母ちゃんは「早く寝な!」と追い返してあげた。


「ゾンビって、ああいうのだっぺ」


「時差ボケゾンビだわな」


ルリコに、帰ってきたらヒドイわよきっと、とあらかじめ言われていたので驚かなかった。


ケンちゃんがセットした洗濯機の音だけが廊下を伝わる。


ハの字に横たわる二人は、クタクタだったが、楽しい思い出に包まれていた。顔がニヤけてしまう。


「また、行くべな」


「ぜひ、行きましょう」


ハハハハ。

フフフフ。


レオナちゃんは忘れない。エメラルドグリーンの巨大なオーロラに赤が混じってゆく空を…。絶景ですね、と言いかけてハッとした。ケンちゃんの顔が涙でびしょ濡れだったから。


よかった…

オーロラ、ちゃんと出てくれて。


旅行のあいだ、ずっとケンちゃんが優しくて、家にいるのと同じくらいの世話を焼いてくれたり、お土産の量が多すぎて、航空会社のカウンターで追加料金を払ったりした思い出など、思い返すことがたくさんあった。


本当に、楽しかったー♡


レオナちゃんが感慨に浸っていると、玄関のチャイムが鳴った。


えっ?

えっ?


二人で顔を見合わせた。

いいよ、俺が出る。


「あれー、珍しいな、よしとみさん。どうしたんだあ?」


「わりぃな、ケンちゃん。旅行から帰ったばっかだっぺ?」


組合の青年部の会長さんのよしとみさんらしい。


「ケンイチさん、上がってもらってください」


レオナちゃんはスーツケースを隣の部屋へ運んだ。レオナハイツの二階がすべて住居なので、めちゃ広いのだ。ペントハウスなのだ。


「奥さん、すみません。ほんと、来るべきじゃなかったなあー、間が悪いよなぁー」


大丈夫ですよ、どうぞ座ってください、よしとみさん。


「んで、どうしたんだ?よしとみさん」


聞けば、よしとみさんの奥さんから、一階のお店、次やる人は決まっているのか聞いてこいと言われたらしいのだ。


ルリコの予言どおり、「例の」加藤志乃さんは次の旦那をあっという間に見つけて辞めてしまっていたのだ。


薄幸はすごいね、とみんなで感心した。


「いや、まだ決まっていねえけど、奥さんやりてえって言ってんの?」


「そうなんだよ。栗林さんとこの店はおしゃれだ。あそこでご飯も出すようなカフェ、やってみたい!って言い出して、まあ、きかねえのよ」


あのサオリさんがねえ…


青年部で、吉富家の嫁サオリは「霊長類最強嫁」と呼ばれていた。


「奥さん、料理に自信あんだ」


「それが、そんなに美味くはねえのよ、それが問題だ。普通よ、いたって。でも、わかっぺ?あの言い出したらきかない性格を…」  


「あ、ああ、まあね…」


うちでよかったら、借りてください、よしとみさん、リンゴジュースを運びながら、レオナちゃんが言った。


「チャレンジ店舗ですよ、うちは。ねえ、ケンイチさん」


そ、そうだな。


とりあえず、よしとみさんは、奥さんに挨拶に来させると言って帰っていった。


寝ましょう。

うん。


ケンちゃんは洗濯物を乾燥機に入れると、布団に入った。


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