第12話 覚醒

「入ってるわね!すごいすごい!」


車が6台停まっているのを見て、ルリコの嬌声があがった。


そう!日曜日の昼間、レオナハイツの一階「カフェ・マリー」は大繁盛していた。


1ヶ月前は閑古鳥が鳴いていたのが、嘘のようである。


「ルリコさんのおかげです。ありがとうございました」


「レオナハイツの店子を、2回連続でしくじるわけにはいかないからね。よかったよかった」


ルリコは飲食店もやっているが、ジュエリーや美しい布、バッグなどのショップも経営している。


その他、店舗プロデュースなども手掛けており、今回レオナちゃんがそこに駆け込んだ、というわけだ。


私が出たのじゃ、ハブ対マングースになりそうだから、とルリコが寄越してくれたのが大番頭の寿賀子だった。


ふんわりとした雰囲気だが、平気できつい指導もでき、店が立ちゆくように導いてくれるカリスマ番頭である。


「何風のカフェにしたいの?」


「その食器じゃ、合わないわー」


「このメニューじゃわざわざお金払わないな、私なら。家で作れるもん」


容赦ない指摘に、さすがの吉富紗央里も口答えできなかった。


一週間店を閉めて、サオリの考えをよく聞き取り、さまざまなサンプルを見せて、店のロゴ、飾り、食器、メニューを変え、試作をし、SNSのページを立ち上げた。


そして店主のサオリを大変身させた。


「どんなに店がおしゃれでも、あなたが主婦のまんまじゃダメ!」


ただ束ねた髪を切り、染め、毎日着るユニフォームを一週間揃えた。


家に戻ったサオリを、家族は驚愕の表情で見つめたという。


旦那は大喜びだった!


「母ちゃん、すげえ!よくよくいいわあ!」


折り合いのよくない義父母でさえ、わぁ!と言ってニコニコ笑っていた。


そして、寿賀子にきっちり家族に挨拶すること!と言われていたので、


「これから、いっそう頑張りますので、ご協力よろしくお願いします」

とぺこりとしたら、全員が倒れた。


本当にうちの嫁かい?

別人になっちまったな、サオリ。

大丈夫かい?


霊長類最強の嫁は、本当に覚醒したのだ。


自分の幸せに気づいた。感謝できるようになった。


マリー・アントワネットにあやかった店名であるが、お客さんは名前と勘違いして「マリーちゃん」と呼んでくれるので、はい!と返事をしている。


指導を仰いだ師匠・寿賀子とルリコ、レオナちゃんがテーブルに座ってランチを注文した。


「クロックムッシュランチ、3つお願いします」


「かしこまりました!」


サオリの笑顔が弾ける。


さすがだね、うちの番頭さんは ♡

いえいえ。彼女、やる気がすごいから。

ありがとうございました。


ケンちゃんにいくら請求しようかなー。

こんぐらいですかね?寿賀子が指を立てる。

はい、いくらでもお支払いすると思います。


クロックムッシュランチに、糠漬け付いてくるの、世界でここだけだね。

愛のおまけ。尊い。

クスクス。

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