第44話 新チャレンジ

いらっしゃいませー!

あれ?お一人ですか?


「30分もしたらルリちゃんも来るよ、たぶん。フフッ」


にこやかに笑ったアイくんが、カフェ・マリーでは「ここ!」と決めている窓際の席に座った。


「社長、なんか用事済ませてからですか?」


美咲ちゃんが水とアイスコーヒーを運んできた。


「実はね…」


この前の健康診断で、ルリコは中性脂肪やコレステロールやらの数値に赤信号が出ており、薬を飲む前に食事制限と運動で努力しなさい、と病院の先生に言われたのだ。


「駅からここまで歩いて来るってさ」


ええー!

遠いっ!


「と言うわけだから、サオリさん、サッパリとしたランチなんか考えておいてください」


「かしこまりました。鶏の生姜焼きにしましょうか。ニラダレで。キノコをたっぷり入れて」


「えっ!なにそれ♡僕もそれにしてください」


サオリの特製ニラダレを使ったメニューは進化を遂げており、メニューにはニラダレのページがあるほどだ。


冷めても具材に染みたタレで、ご飯がどんどん入ってしまうらしい。


「はぁー!着いたー!こんにちはー!」


ルリコが汗だくで登場。


社長、お疲れ様です。すごいですね!駅からとは。


冷たい水を渡す美咲ちゃん。


「ありがと、ありがと!サオリちゃん、お疲れ様ー!」


「お疲れ様です!社長とアイさんに、鶏の生姜焼き定食作ってますよー!」


わーい!食べる食べる!

アイくんただいま。


「はい、着替え。お疲れ様!」


さっぱりと着替えたルリコはいつもの元気を取り戻した。


「途中、栗林のパパには会うし、ケンちゃんにも会うし、もう笑っちゃった」


「えっ?ほんと?それはすごいな」


ケンちゃんはクラクション鳴らして応援してくれたよ、とルリコが言うと、店内爆笑。


「これを2ヶ月やったらもう健康体に戻るわ!手嶋の奴の言うとおりにはならないわよ!」


先月、健康診断の結果と時を同じくして、同級生の小説家・手嶋カヲルの新刊が出たのだ。


ルリコを当て書きしたと思われる人物が、年下の夫に看取られながら病死する物語であった。


普段であれば、負け犬の遠吠えとばかりに鼻で笑って終わりだったのだが、自分の健康問題もあり、今回は焦り始めたのである。


「あの人のおかげで、ルリちゃんが若返っちゃうの最高だね」


アイくんは鶏の生姜焼きに舌鼓を打ちながら、ニコニコ笑った。


「そう言えば、あいつがあんな本書かなきゃこんなに頑張らなかったかもー。まあ、許さないけどね」


うふふ

あはは


「そうだ!私がこんなに頑張ってんだから、みんなにも何か新チャレンジしてもらう企画作ろうっと!」


転んでもタダでは起きない。

自分だけ頑張るのは嫌なルリコは、明日の会議にそれを提案すると言う。


「僕は?何かやる?」


「アイくんはいいの。いつも研究頑張ってるしぃー、カッコイイしー、それ以上美男になったらまた女と闘うようじゃない」


ルリコは以前、アイくん狙いのブラジル人女性と闘ったことがあるのだ。


「えー、僕だけ仲間はずれ?」


「じゃあ、1日5分の掃除!」


「お、お、おう…。さすがに痛いとこついてくるね」


サオリと美咲ちゃんは、呆れた顔で見つめ合った。


そして、嫌がらせにデザートにケーキを出すことにしたのだった。


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