第38話 2人ランチ

その週の土曜日。栗林の夫婦と京子と、レオナちゃんと、ルリコの5人で、歌舞伎を観に行くことになった。


暇になるであろうその日のために、ケンちゃんは帰国しているアイくんに連絡を入れてみた。


「いいよ!昼から会おうよ」


「マジ?やったー!」


アイくんのことが、ケンちゃんは好きだった。


考古学者とかいう全然わかんねえ仕事だし、近所に行くみたいに外国行くし、見た目の3倍は大食いだし、なんたってあのルリコと夫婦だ。


俺なんか逆立ちしてもかなわねえ偉え先生だっつーのに、ひとつも威張ってねえんだよな…かっけー


「やあ!ケンちゃん!」


約束したファミレスにアイくんが現れた。めちゃくちゃ手を振っている。


どもども!

久しぶり!


たまに、関係先じゃねえとこに行きたかったんだ

わかるわかる、新鮮だよ!


ケンちゃんはカルボナーラのパスタと、クラブハウスサンド、アイくんはステーキセットとミニ親子丼という、怒涛のハイカロリーランチとなった。


「なかなか食べるなあ、ケンちゃん」


「アイくんだって!」


今日は、ドリンクバーでメロンソーダを何杯飲んでも、白い目で見られない!


コーラとオレンジジュースを混ぜてもいい!

自由だ!


発掘の話、栗林農園の売れ筋、アイくんがいなかった間の出来事など、2人は夢中で喋った。


「えっ!靖彦店長とサッちゃんが?」


「そうそう。この前マリーでランチしてたの見てさ、ルリちゃんとそーっとそこを離れたの」


「いい感じなんだべか?」


「まぁ、休日を一緒に過ごすって、ねえ…そんな感じじゃない?」


知んなかったなー、そりゃ。大事件じゃねえ?運命の輪の


ルリちゃんが、月に2回くらいは2人のシフトを合わせるように寿賀子さんに言ってさ、ほんのり見守るって言ってたよ


「デザート頼むべ、アイくんどれがいい?」


「うーん、コーヒーゼリー!」


ファミレスを出たあとは、2人で海に行った。


「綺麗だなぁー、夕方の海」


「ほんとだなぁー」


俺たちまずいね、ケンちゃん


ああ、やりすぎたな


2人の胃袋はMAX!ひたすら眠いのだ。


「このまま海で寝たらまずい!アイくん、うちに来て昼寝してけよ」


「そうさせてもらうわ。食べすぎたー。ストッパーがいないからなぁ、今日は」


2人は顔を見合わせて笑った。


「俺ケンちゃんのこと、すごいと思って!若き経営者で、成功してるしさ。売り上げ右肩上がりでさ」


そ、そ、そんな、俺なんて親父の言う通りにしてるだけでよぉ、どうってことねえ


それが尊いよ!もちろんお父さんも立派だし、言うことない。ケンちゃんも迷いがない。レオナちゃんもいい感じに手伝ってて、すごいいいよな!


そ、そう?レオナちゃんがあんなにやってくれるとは、俺も思ってなかったんだ…


幸せだよ、ケンちゃんは!


アイくんもな!


ああ、もちろん!これまでになく自由で幸せなんだよ、俺も!


水平線に沈む、ピンクやオレンジの太陽を見ながら、男2人のデートはクライマックスを迎えていた。


完璧である。










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